第5話 ドイツから来た許嫁

「許嫁ぇ!?」


俺の漫画のような驚き方に金髪の女性は口を歪ませている


「私は決してこの方と結婚など致しません!!」


「よう言うた!それでこそ女や!」


「え?」


俺が否定したのを驚いたのかトーマスさんと金髪の人は”意外だ”という顔をした


「どうした俊輔君。うちの娘はそんなに嫌かね?親の私が言うのもあれだが結構可愛いと思うんだが」


「父上ぇ!」


女性はそれが恥ずかしいのか頬を赤くしてトーマスさんに当たる

確かにトーマスさんの言う通り、この女性は恐ろしいほどに可愛い

こんな方が嫁ならば自慢しまくるであろう美しさだ


だが、親が決めたことに無理やり従わされるのはいくら何でも人権侵害だ

人生は自分のものなのだから彼女にだって好きな相手と結婚してほしい

俺だってすでに気になっている人がいるし…

そう思ったとき無意識に北条さんを見る


「?」


北条さんは顔に?を浮かべている

実のところ、俺は年上の女性の方が好きだ

それに生まれも育ちも食ってきたものも違うであろうこの女性と上手くいくとは到底思えない

ここは丁寧に相手を気付つけないようお断りを…


「俊輔よ、どうじゃ上手くやっていけそうか?」


なんとそこにじいちゃんまでも集まり、この会場の主役ともいえるであろう者たちがその場に集ってしまった


「じいちゃん…さすが許嫁なんて…人権侵害でしょ…」


俺の放った言葉に一理あると首を縦に振るじいちゃんは話をつづけた


「お前の言うこともわかる。確かにお前とハーゼンクレーヴァーは会ったことも話したこともない。しかしこれもまた縁だ」


「縁?」


じいちゃんは手に持った葉巻を口で吸い、一度息を吐いた

その表情はにっこりと笑っており俺に期待の眼差しを向けていた


「まだ時間はある、彼女ともっと話すといい。お前ならできるさ」


「....................」


そう言ってじいちゃんはまた多くの人と共に別の場所へ行ってしまった

でも俺がどうやって話の輪を広げれる?

何か、何かないだろうか。俺にもできる世間話


「そうそう俊輔君この子まだ自己紹介してなかっただろ。ほらミラ」


俺が話しかける前に向こうから話題が始まった


「仕方ありませんね。ミラ・フォン・ハーゼンクレーヴァーです。ドイチュラントから参りました。この度はパーティにお招きいただきありがとうございます」


招いたのは俺じゃないと思うけど、ドイチュラントって確かドイツだっけ…


「よろしくおねがいします」


俺が頭を下げると彼女は驚いた

何か変な事でもしただろうか?

無礼をしたのなら謝ろう


「日本人とは本当に頭を下げるのですね。迷信かと思っていました」


意外な答えに国柄が全く違うとわからされる


「そうですね、やっぱり癖で下げちゃいます」


日本人としてはこれが普通過ぎて他国から見れば変だろうな

話はトーマスさんが出してくれた話題で結構喋れた

ミラさんも笑ってたし、これは好印象を与えられたか?




「ふぅーーーちかれたぁあ……」


少し自室で休憩するために来たが、人目がなくなると一気に疲労がやってくる

真っ白でふかふかなソファに寝転がる

その柔らかさが余計に眠気を襲う


「どうぞ、ご主人様」


目の前のテーブルに北条さんがレモンティーを置いてくれた

薄切りにされたレモンが紅茶の上に浮いている


「ありがとうございます!」


コクコクと熱さに気を付けてゆっくりと飲む

うますぎぃ~こんなきれいな人に入れてもらうレモンティーだからうまさも3倍くらい上がってるんだろう


そういえばどうしてお浮上さんは執事なんだ?こういう乗ってメイドなんじゃ…

気になってきたので直接彼女に聞いてみた


「え?”なぜメイドではないのか”ですか?わ、わたくしにはメイド服は似合いませんよ」


頬を赤くして笑う北条さんは、レモンティーのおかわりはどうかと聞いてきた

そうかなぁ、北条さんにだったらきっと似合うと思うんだが

さすがに強制するのはサイテーすぎるからこれ以上この話題はやめておいた方が良いだろう


「にしても、ドイツかぁ…」


思っていることがぽろっと口に出てしまい北条さんも俺の考えが漏れてしまった


「ハーゼンクレーヴァー様ですか?」


「ドギィ!!そ、そうっすね…どうしたら仲良く打ち解けれるか。ずっと考えてます」


ドイツについて知っていることなんてサッカーの知識だけだ。

マジでブンデスリーガとかギュンドアンくらいしか思いつかん


「きっとミラ様も俊輔様と打ち解けたいと思っておりますよ」


「そ、そうかなぁ?」


ニコッと笑った北条さんが二杯目のレモンティーを入れてくれた

それがとてもおいしくて、その時間がとても心地よかった


その日の夜は少し冷たい風が服の間を通ってきた


でも良い夜だった















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