第3話 驚きの罰!生徒会長補佐?

 入学式から一週間。わたしは仕方なく恵蘭学園けいらんがくえんに通うことになった。

 家庭の事情で公立の中学に通うのは難しいし、本当に仕方なく。

 式のあと、両親は必死になって謝ってくれたけど、わたしの気は収まらなかった。


長谷川はせがわさん、その格好はなんですか?」

「学生服です」


 校門をくぐったところで引き止められる。

 またか。そう思いながら、わたしは声がする方を向いて返事をした。

 生活指導の佐々木ささき涼介りょうすけ先生だ。


長谷川はせがわさん、何度も説明していますが……学校では恵蘭学園けいらんがくえん中学の標準服を着てください」


 佐々木ささき先生が、大きなため息をついた。

 けど、わたしも譲れない。

 わたしは佐々木ささき先生にいつも通りの返事をした。


佐々木ささき先生、わたしも何度も話していますけど、制服を着る理由がわかりません。」

「それは校則ですから……」

「わたし、それじゃ納得できません。授業もしっかり参加してます。納得できるまでは、服装を変えません」

「あ、ちょっと、長谷川はせがわさんっ」


 わたしはそのまま、佐々木ささき先生を振り返ることなく、校舎まで駆け出した。


 そう、これはわたしの小さな反抗。


 絢爛学園けんらんに入学できていれば、この格好でも誰も何も言わなかったはず。

『自分らしく』をまっすぐに、ありのままでいられる場所だったはず。


長谷川希里はせがわ きり、また佐々木ささき先生から逃げてきたのか」

「だったら、なんですか? 綾小路あやのこうじ先輩」


 校舎に入った途端に、上から呼びかけられる。

 わたしは走って少し乱れた呼吸を整えているところで、仕方なく頭を上げ彼に返事をした。

 朝からまた嫌な人に会ってしまった……。


「逃げるくらいなら校則を守ればいい。派手な髪飾り、髪の色、標準服未着用……全て違反だぞ」


 先輩は、わたしを見下ろしながら、髪の毛や制服をいちいち指差しで注意してきた。

 本当に嫌味。

 入学式以来、わたしは彼のことが苦手だった。

 なのに彼は校内で会うたびに、こうしてお説教してくるんだ。

 もちろん、それにもしっかり反論する。


「納得ができない校則は守れません。それじゃあ」

「納得できれば守るのか? なるほど、わかった」

「え……?」


 綾小路あやのこうじ先輩は、そのままスタスタと階段の方に消えていった。

 拍子抜けしたわたしは、ゆっくり教室がある四階に向かった。


「おはよう」


 教室に入るとき、わたしは挨拶を欠かさない。

 このクラスの人間としての最低限のマナーだって思ってる。

 クラスのみんなは、わたしの格好を見て困り顔を浮かべたり、苦笑いをして挨拶を返してくる。


「お、おはよう」

「おはよ」


 やっぱり、この学校でも同じか。

 クラスから浮いているのはわかっているし、友達ができるなんて期待してない。

 けど、ひとりくらい、気が合う友達ができたら……なんて思ってたのにな。


 気がつけば放課後になってた。

 今日は掃除当番もないから、このまま帰ろっと。


長谷川はせがわさん」

日置ひおきくん、どうしたの?」


 席を立とうとしたとき、日置ひおきくんに声をかけられた。

 用事がない限りは話しかけてくるような人じゃないけど、どうしたんだろう?


「伝言。一階の生徒会室に寄ってだって」

「生徒会室?」


 生徒会室って、綾小路あやのこうじ先輩がいるかもしれない。

 なんとなく寄らずに帰りたいな〜って思っていたら、日置くんはそれに気づいたみたいで、眉をぴくりと吊り上げた。


「必ず寄ってね。長谷川はせがわさんが行かなかったら、学級委員の僕がちゃんと伝えられなかったって思われるかもしれないし」


 う〜ん。思っていることがバレバレだったみたい。

 困ったわたしは、仕方ないかと諦めて息を吐いた。


「ちゃんと行くから安心して! また明日ね」

「また明日」


 わたしは立ち上がって教室を出た。

 早足で階段を下りる。

 嫌なことはさっさと済ませちゃおう!

 そう思いながら一階の生徒会室に向かった。

 コンコン!

 ノックをすると中から聞いたことがない誰かの声が返事をした。


「どうぞ〜!」

「失礼します。一年三組の長谷川希里はせがわ きりです」


 わたしが挨拶すると、教室には男子生徒が一人いた。席には「副会長」の札が立っている。


「そこの椅子に座って」

「はい」


 彼はこちらを向いてにっこりと微笑んだ。

 名札には「三原みはら」と書いている。


「オレは生徒会副会長の三原みはら光次郎こうじろう。よろしくね!」


 三原みはら先輩は、茶色がかった髪の毛に白い肌で、目鼻立ちははっきり目で少し目尻が下がってて、優しそうな顔をしていた。

 背は、座っていてわからないけど、高めかな?

 まるで王子様みたいな人だ。


「よろしくお願いします。あの、わたしはなんで呼ばれたんですか?」


 三原みはら先輩はキラキラしていて、二人きりの時間が続くのは緊張しちゃう。わたしは早く話をしてしまいたかったんだ。


「実は、先生たちに頼まれたんだ……君のこと。校則違反をしているのは認める?」

「はい。認めます」

「オーケー。その違反に関して、先生たちは君の処罰を生徒会に委ねた。そこでだ!」


 三原みはら先輩が身を乗り出してわたしを指差した。

 そして、驚いて瞬きをしているわたしに、もう一度笑いかける。


長谷川希里はせがわ きりちゃん。罰として君を、生徒会長補佐に任命する!」

「生徒会長……補佐?」


 わたしは、気になった言葉を繰り返した。

 生徒会長って……綾小路あやのこうじ先輩?

 わたし、綾小路あやのこうじ先輩の補佐をするの?

 ええ〜! 嘘でしょう?

 驚いて言葉も出ないよ〜!

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