第2話 失礼なあの人の正体
わたしは顔を思いっきり歪めた。
なんで初対面の人にこんなに失礼なことを言われなといけないの?
そうしたら彼は、今度はさらに首をひねって目をぱっと開いた。
「俺の言っていることが、わからなかったか? だからどう考えても自分の入学する学校がわからないわけがないし……」
「それはもう聞いた! そういう意味の「はあ?」じゃないから!」
やめて、なんで繰り返すの?
わたしはもう聞きたくなかったから、彼の言葉にかぶせて否定した。
彼はわたしが言ったことの意味がイマイチわからない様子で、また首をひねってる。
「では、それはどういう意味の「はあ?」なんだ?」
「嘘、なんでわかんないの? 人のことバカにするようなこと言って……すっごく失礼ですよ!」
わたしは一歩前に出て彼の顔を見上げた。
う〜ん。顔はいい……いいんだけど、腹が立つものは立つ。
今度は彼がずいっと顔を前に出してきた。
ちょっと、近すぎる〜!
慌ててわたしは彼から顔を逸らした。
「バカにするようなことではなく、そんなバカがいたとして、という話なんだが……」
もう、なんなの、この人?
悪びれもせずわたしの言葉を訂正する彼に、ついにわたしの怒りは爆発した。
「だ、か、ら、さっきからバカとかなんとか失礼なの! こんな学校来たくもなかったし、どんなに賢い人が多くても入試が難しくても、あなたみたいな人がいるってだけで最低。もういい、わたし入学しない。帰る。さようなら、名前も知らない……たぶん先輩さん!」
言ってやった。
わたしはこのまま帰ろうと、彼に背を向け一歩踏み出し、歩き始めた。
「逃げるのか?」
背後から聞こえた、聞き捨てならない言葉。
わたしがぴくりと片方の眉を吊り上げて振り返ると、彼は待ち構えたかのように両腕を前に組んで立っていた。
その顔は、さっきまでの無表情とは違って、ほんの少しだけど口の端を上げて笑っているようだった。
「逃げるって、どういうこと?」
「そのままの意味だ。ああ、本当は合格したなんて嘘じゃないか?」
「なにそれ」
わたしは彼の発言に驚いて目を大きく開いた。
言いがかりにもほどがある。
「だってそうだろう。君は入学式に出ず帰ろうとしている。実は受験したが落ちて、思い出作りの記念撮影だけしにきたと考えれば、君はバカではなく憐れな女子ということで納得できる。正直、入学する学校がわからなかったより説得力がありそうだ」
「違うし、受かってるから。滑り止めでね!」
「証拠がないな」
肩をすくめて両手を今度は軽く上げた彼の態度が、余計わたしの怒りに火をつけた。
こんな学校、入りたくても入れなかった子なんて思われたくない。
わたしは彼を睨みつける。
「だったら、証明してみせるわ。わたし、入学式に出る! それなら新入生だってわかるでしょう?」
「いいだろう。俺も式に出るから君がいるか確認するよ。それじゃあ会場で」
そう言って彼は校舎の中に入っていった。
式に出るって、もしかして同じ新入生?
結局名前も分からなかったなあ。
かっこいいけど、すっごく失礼。
困り顔の両親と一緒に、わたしも校舎に入っていった。
そして、やる気がないまま、周りの流れになんとなく乗るように入学式に参加していた。
『次は在校生代表の挨拶です。
「はい!」
壇上に男子生徒が立った。
ぼんやりとそれを見ていたわたしは、驚いて口をぽかんと開いて呟いた。
「嘘でしょ……」
『
挨拶をしていたのは、さっきのあの失礼な男子だった。
彼はまっすぐ前を見て、わたしたち新入生に向かって、堂々と長い挨拶を俯くことなく話してて。
すごいなあ……なんて、不覚にも尊敬してしまった。
それに、彼が話し始めてから、周りの女子たちがキャッキャしてる。
「
「あの人、二年なのに生徒会長なんでしょう?」
「すごいよね、成績も入学以来全教科一番をキープしてるんだって」
「スポーツもできるって〜」
「なにそれ、もうパーフェクトだよ。私、
そんなにすごい人なの?
わたしは周りの女の子たちの話を聞きつつ、もう一度壇上の彼を見た。
……って、こっちを見てる?
『皆さんは今日、どのような気持ちで、門をくぐってきたでしょうか。
中学校生活への希望を持っている人もいれば、緊張や不安で押しつぶされそうになっている人もいるでしょう。そもそも、入学する学校を間違えたなんて人もいるかもしれません』
それ、きっとわたしのことだよね?
どんなにかっこよくても、性格は悪そうだけどな。
『……三年後、卒業式を迎えるとき、かけがえのない時間だったと思えるよう、悔いのないように一日一日を過ごしていってください。在校生代表、
「え、嘘。さっき
「見てたよね? かっこいい〜」
周りの女の子たちが小さな声を弾ませてる。
そんな風景にため息しか出ない。
こうしてわたしは、
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