まっすぐに前!〜大嫌いなはずの君だけが、ホントのわたしを見てくれた〜

松浦どれみ

第1話 騙された?入学式でサイアクの出会い

 四月。今日は念願の入学式だ。

 わたし、長谷川希里はせがわ きりは厳しい受験を乗り越え、憧れだった絢爛学園けんらんがくえん中学ちゅうがくに通うことになった。

 ……はずだった。


「じゃーん! お父さん、お母さん。どうかな、似合ってる?」


 朝、新しい制服に身を包み、髪も小物もしっかりおしゃれをして、両親が待つリビングでお披露目。

 あれ? ふたりとも目元と口元がピクピクしている。

 どうしたのかな?

 いつもなら、にっこりと笑って「似合ってる」って言ってくれるはずなのに。


「き、希里きりちゃん。その制服、どうしたの?」


希里きり、なんだいその格好は?」


「え? なにって……」


 わたしは首をひねった。驚いたかのように目を大きく開くお母さんと、困っているような顔のお父さんを見てから、うつむいて服装を確認したけど、なにがおかしいのかわからない。


希里きりちゃん、一緒に買いに行った制服はどうしたの?」


「それ、全然違う格好じゃないか」


「ああ、あれ? 買ってもらって悪いけど着ない。これが私の制服!」


 わたしは両手で制服を指差した。ショート丈のブレザーに大きなリボン、ウエストは高めでベルトをしめて、スカートは短め。厚底のローファーを合わせると完ぺき!

 だって、これから通う絢爛学園けんらんがくえんでは、誰も制服なんて着ていないんだもん。みんなスクールっぽいオシャレな格好で個性を出している。

 だから、買いに行って初めてアレが絢爛学園けんらんがくえんの制服なんだって知ったくらい。


希里きり、さすがに初日なんだから、ちゃんとした制服を着よう」


「ええ、そんな人いないよ? 最初から地味な制服で行ったら、友達できないよ〜」


「そう、それよ!」


「えっ……?」


 わたしが口を尖らせていると、お母さんがソファから急に立ち上がった。

 驚いて一歩後ろに下がるわたしの肩を、お母さんがぎゅっと掴む。


希里きりちゃん、制服をきちんと着こなして行った方がみんなの印象に残るわよ」


「どういうこと?」


「入学式から派手だと、みんなに埋もれて気づいてもらえないかもしれない。けれど、学校指定の制服ならみんなとかぶらなくて目立つかも!」


 確かに。お母さんの言うことは一理あると思った。

 けど、不安なこともある。


「でも、それで地味でつまんないやつって思われたら……?」


「初日だけでいいのよ、今日だけ。あとはオシャレな格好をしていけば、みんなと馴染むこともできるでしょう?」


「そう、かな?」


「そうだ、いい考えだと思うぞ。希里きり


 お母さんの言葉にお父さんも頷いている。

 わたしも、その作戦はなかなかいいと思った。

 急いで二階の自分の部屋に戻って、学校指定の地味〜なワンピースとジャケットに着替えた。


「着替えたよ〜。どうかな?」

「「似合ってる!」」


 リビングに下りて行ったら、今度は両親がにっこりと笑って褒めてくれた。

 それから、わたしは家の車で学校に向かった。

 なんだか受験のときと景色が違う気がするけど、あのときはまだ冬だったからかな?

 ……なんて思っていたのは間違いだったと、わたしはついに気づくことになる。


「さあ、着いたぞ!」


「行きましょう」


「うんっ!」


 校舎の前には入学式と大きく書かれた看板があった。

 そして、その後ろには学校の名前が書かれた校門の大きな柱。


「あ、写真撮ろう……って、恵蘭学園中学けいらんがくえんちゅうがく?」

「ああっ!!」


 絢爛学園けんらんがくえんじゃない?

 わたしはわけがわからなくて、両親に聞こうと振り向いた。

 二人とも、口を開けて青ざめた顔をしている。


「お母さん、お父さん! どういうこと? ここはどこ? わたし絢爛学園けんらんがくえんに行くんだよね?」


希里きり……」


「それは……」


 お母さんもお父さんも目尻をめいっぱい下げて困り果てた顔をしている。

 恵蘭学園けいらんがくえんは、たしか絢爛学園けんらんがくえんの滑り止めだと言われて受けた学校のうちの一つだ。


「まさか……わたしのこと、騙したの?」


「ご、ごめんね……」


「ひどい。わたしがどんなに今日を楽しみにしていたか、知ってるはずなのに! ひどいよ、ふたりとも!」


 わたしは、人目も気にせず大きな声で両親に不満をぶつけた。

 だって許せなかった。絢爛学園けんらんがくえんに入るためにって勉強だってがんばったのに。

 そのとき、後ろから少し低くてキレイな声が聞こえた。


「君は、自分がどこの学校に入学するか知らないでここに来ているのか?」


「え……?」


 振り向くと、そこには背の高い男子が立っていた。

 同じ学校の制服……先輩かな?

 髪は黒くてサラサラしていて、目はキリッとして鼻が高いから大人っぽく見えたんだ。

 彼はわたしを見て、あごに手を当ててう〜んと小さく唸った。


「受験から制服や教科書等の購入、今日ここへ来る道のり。気づくチャンスはあったはず。どう考えても自分の入学する学校がわからないわけがない。それにこの恵蘭学園けいらんがくえんは入試も難しい。そんなバカがいたとして、入学できること自体が不思議だ……」


「はあ?」


 ちょっとでもカッコいいと思った自分がバカだったと、わたしは思った。



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