第5話
「アマンダ……。体調は大丈夫か?」
顔色の悪い、私より体調の悪そうなジェレミーがやって来た。
二人きりにならないように、ドアは開けておりその近くでバーサが控えている。ジェレミーの従者アーロンも控えているようで、バーサはジェレミーとアーロンを鋭い眼差しで睨み付けるのに忙しそうだ。
「ええ。もう熱は下がってるの。……ジェレミー。この前はごめんなさい。」
「いや。俺が全て悪い。」
私はふるふると首を振った。
「ジェレミーの意見を聞かなかった私も良くなかったの。ジェレミーの話、聞かせてくれる?」
私の言葉に、ジェレミーはぎこちなく頷いた。
◇◇◇◇
「クララは、第二王子との婚約を控えている……。」
「え!」
思いがけない言葉に私は目を丸くした。ジェレミーは、この国の第二王子の侍従候補だ。第二王子は、これまで婚約者もいなかった筈だ。
「殿下がお忍びで市井に遊びに出た時に、出会ったらしい。それから心を通わせたようだ。」
まさかの恋愛小説のような展開に、私は戸惑いを隠せない。
「それで、婚約者として迎えたいようだが、流石に平民では難しい、ということで遠縁の男爵家に養子に入った。男爵家で、基本的なマナー等を身に付けたら、伯爵家以上の家で養子縁組するらしい。」
心の中で、そんなことが出来るのか、という私の疑問が湧く。それに気付いたジェレミーが「かなり例外的な処置だ。」と付け加えた。
「クララは……努力して勉学に取り組んではいるのだが、最初の頃はマナーに苦戦していた。平民と貴族では、異性間の距離が違う。彼女の距離の近さに勘違いした令息がたくさん出てしまった。」
ジェレミーは、うんざりしたような表情で息を吐いた。
◇◇◇◇
「殿下は、クララを助けて欲しい、と俺に頼んだ。」
第二王子は既に学園を卒業している。なので、まだ学生で、第二王子の侍従候補であるジェレミーにクララのフォローを頼んだ。本来なら、他の女子生徒がフォロー出来たら良かったのだが、思いもよらず、クララが令息たちを虜にしたことで、クララは、女子生徒からは総スカンを喰らっていたのだ。
「殿下とクララの婚約は、まだ公表できない状態で、彼女をフォローできる人間があまりおらず……だが、決して二人きりになったりはしていないし、心通うようなことは無いんだ。」
クララには、第二王子の影がつけてあり、私がジェレミーとクララが二人きりだと思っていた場面でも常に誰かしらがいたらしい。
「……相談してくれたら良かったのに。」
「……っ、ああ、俺も後悔してる。アマンダしか見えていないから、クララと過ごしていると周りからどう見られるかなんて考えたこともなかった。」
「んん?」
私の口から令嬢らしくない音が漏れた。
「アマンダしか見えていないんだ。他の女子は石ころみたいな物だ。だから、クララといようが、他の女子生徒といようが何にも思わない。」
急にジェレミーから発せられる甘ったるい言葉に私は顔を真っ赤にした。
「……だけど、この前教会でアマンダが他の男といる所を見て、俺は恐ろしくなった。アマンダが他の男の所に行くのではないか、もう俺とはいてくれないのではないか……あの短時間で絶望していた。」
「あ、あのお方は……。」
「ああ、分かっている。アマンダが話を聞いていただけだと。それでもあれ程辛かったのだ……あんな思いをアマンダに長い間させていたと思うと……。本当にすまなかった。」
ジェレミーは深々と頭を下げた。私は言葉が出なかった。
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