第4話


「お嬢様、何かあればすぐお呼びくださいね。」



 ベッドに寝かされた私は、バーサの言葉に小さく頷いた。バーサは心配そうにしながら退室した。



 あの後、わんわんと大声で泣き続けた私を助けてくれたのはバーサだった。「今日はもうこれまでにして下さい。」と、鬼のような表情でジェレミーに言い放ち、私は幼子のようにバーサに手を引かれ帰宅した。



 帰宅してすぐ、泣きすぎたせいか、ストレスが大きかったせいか、発熱してしまった。慌てた使用人たちが、あっという間に寝支度をしてくれ、お医者様を呼んでくれ、熱さましを処方された。





「……今日は、散々だったわね。」



 いくら寝ようとしても、全く寝付けない。溜息をつき、言葉を漏らすと、コロンと、寝返りを打った。



「だけど、良かったのかもしれないわ。」



 あんな醜態を晒してしまったけれど、それでも思っていたことを全て伝えることが出来た。ジェレミーに引かれていても構わないと思えた。




 私は、目をぎゅっと閉じると、無理矢理眠ろうと試みた。





◇◇◇◇





「……アーロン。」



 帰り道の馬車の中、絶望に打ちひしがれた主に名を呼ばれたアーロンは、渋々返事をした。




「何でしょうか。」




「俺は、あれほどアマンダを傷付けていたのか。」



 アマンダは幼い頃から、引っ込み思案で優しく、控えめに笑う女の子だった。今日のように感情を爆発させることなど、今までに無かった。




「そうですね。」




「……はぁ。どうしたらいいんだ……。」



 がっくりと肩を落としたジェレミーを、アーロンは慰めなかった。アマンダに言葉が足りないと散々忠告したのに、聞かなかったのはジェレミーだ。



「ともかく、謝られるしかないかと。今日、アマンダ様もご自分の気持ちを伝えて、多少は気持ちが収まっている筈です。次は、もう少し聞いて下さるかもしれません。」




「……ああ。」



 アーロンは、この不器用な主を複雑な思いで見ているしかなかった。




◇◇◇◇




 翌朝。



 熱が下がらない私を、両親も、バーサも、他の使用人たちも心底心配してくれた。私は退屈を感じながら、ベッドの住人となっていた。




「……お嬢様。」



 バーサは複雑な表情で私に近付いた。バーサの手には大きな、色とりどりの花束が抱えられている。



「まぁ!可愛い!」



「……ジェレミー様からお見舞いです。」



「え……?」



「ジェレミー様から、お嬢様へ面会したい旨の連絡があり、お嬢様の体調不良を伝えたそうです。……私は廃棄しようとしたのですが、侍女長にお嬢様に確認しないでそんなことをしないようにと怒られてしまいました……。」



「ふふふ。」



 ジェレミーからの花束、ということで多少動揺したけれど、廃棄できずに悔しそうにしているバーサが可愛くて、私は思わず笑ってしまった。



「バーサ、ありがとう。お花に罪は無いし、こちらに飾ってちょうだい。」



「……分かりました。」




 バーサは、渋々、本当に不本意、と言った様子で私の部屋に花を飾った。その様子があまりに可笑しくて、私はまた笑ってしまった。それから、私の熱が下がる四日後まで、毎日花束のプレゼントは続いた。





◇◇◇◇




 四日後。



 漸く熱が下がった私だが、心配症の両親やバーサたちによって、未だにベッドの住人だった。私の部屋には、ジェレミーから贈られた花が所狭しと飾られている。





「……お嬢様。」



 不満そうに部屋にやって来たバーサに、私は少し戸惑った。



「どうしたの?」




「ジェレミー様が面会に来られています。」




「え……。」




「私は、箒で叩いて追い出そうとしたのです!……ですが、箒を取りに行った所を侍女長に見つかってしまい……。」



 悔しくて堪らない、と言った様子のバーサに、また心が緩んだ。



「お嬢様が会いたくないと一言仰って下されば、私が追い返せます。」



 箒は使えませんが……と付け加えるバーサを見て、私は心強く感じた。



「ううん、バーサ。私、ジェレミーに会うわ。この前は、私の話しかしなかったから、ジェレミーの話も聞かなくちゃ。」



「お嬢様……。」



 それは、お父様から「話し合うように」と言われたから、というのもあるけれど、それだけじゃなかった。



 四日間、ベッドの中で考えていたこと。これを伝えなければ、と拳を握った。



 バーサは、不満そうにジェレミーを呼びに向かった。

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