第3話


「アマンダ、頼む。話をさせてほしい。」



「私、先約がありますの。」


 頭を下げるジェレミーに、私は冷たく言葉を放った。ジェレミーは私の言葉に、まるで地獄に堕とされたかのような、絶望の表情を見せた。




「……ジェレミーはいつだって、私にそう仰っていましたわよね。何故ショックを受けるのか理解できませんが。」



 ハッとしたジェレミーの顔を見た後、横を通り過ぎ、教会へと向かおうとする。



「……アマンダ。先約が終わってからで構わないから、話をさせて貰えないだろうか。」


 私は小さく息をついた。正直断ってしまいたいが、お父様からも言われているし一度は話をしなくてはならない。私は振り返ることもせず、答えた。



「……分かりましたわ。」



「……ありがとう。」




◇◇◇◇



「司祭様!」


 教会に辿り着くと、顔なじみの司祭様が迎えてくれた。私が、聖職者の仕事について教えてほしいと頼むと「それなら、私より彼が良いでしょう。」と一人の若い男性を連れてきた。



「彼は司祭見習いではありますが、多くの教会を回り、学んできた者です。きっとアマンダ様の役に立ちましょう。」


「ありがとうございます!お願いします!」





◇◇◇◇





「…………おい。」



「いかが致しましたか、ジェレミー様。」


 教会の外から、アマンダを待つジェレミーは、従者アーロンへ声を掛ける。



「何だ、あの男は。アマンダと近くないか。」



「いいえ。きちんとマナーの範囲内の距離を保っておられます。」



「だが……。」



 アーロンは冷たい目線で主を見据えた。




「……この三か月間、アマンダ様はずっとそんな思いをされていたと思いますが。」



「な……、クララとはそんな仲では無い。お前も分かっているだろう。」



「ええ、分かっておりますよ。ですけどアマンダ様だって、あの方とは今日初めてお会いしただけの関係ですよね。」



「……。」





「大事な婚約者が、説明もなく、自分以外の異性と過ごしている。自分との交流は後回しにされる。それがどれほど心乱されることか、理解されましたか。」



「……ああ。」



 ジェレミーの瞳に入る、楽しそうに笑うアマンダと司祭見習いだという男。ギリギリと、胸が潰されるような痛みがジェレミーを襲った。





◇◇◇◇




「今日はここまでに致しましょうか。」



「はい!ありがとうございました!」



 司祭見習いの方との話を終え、私は満足していた。教会は、誰にでも開かれる場所であり、私がなりたいと思えばすぐシスター見習いになれると言う。勿論、なってからはたくさんの勉強が必要なようだけど。




「アマンダ……。」



 教会の出入り口で待っていたジェレミーを見て、私はぎくりとしてしまった。彼のことを考えないようにしようと必死だったからだ。





◇◇◇◇




 教会の隣にある公園のベンチに、二人並んで腰掛ける。



(冷静に、冷静に。どうにか、婚約破棄に持っていくのよ。)



「アマンダ……すまなかった。アマンダに嫌な思いばかりさせてしまって。」



(冷静に、冷静に……。)



「だけど、誤解なんだ。」



(先ほどみたいな失態は絶対にしないんだから。)



「クララとは、そんな仲では無くて。理由があるんだ。」



(冷静に、冷静に……。)



「クララは……。」






「クララ、クララってうるさい!!」



「……!!」



 やってしまった、と思った時には、もう口が止まらなくなっていた。




「……他の人の名前なんて呼ばないでほしかった。」



「アマンダ……。」



「……私のこと、後回しにしないでほしかった。他の人と二人きりになんてならないでほしかった。」



「ち、ちが……」



 ジェレミーが私を引き寄せようと、私の腕を掴んだ。私はそれを振り払い、ジェレミーの胸元をぽかぽかと叩いた。




「きらいっ、きらいっ!だいっきらい!ずっと、一緒にいるって、言ってたのに……っ!うそつき!うそつきっ!」



 ぼろぼろと涙を流しながら、ジェレミーを叩き続ける私のことを、ジェレミーは止めることは無かった。





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