第2話
「お父様!私、婚約破棄したいのです!」
婚約者とのお茶会に行っていた娘が、帰ってくるなり執務室に飛び込んできて、急に爆弾発言を落とされたことで、アマンダの父は口に含んでいた紅茶を噴き出した。
「ッゴホッ……ゴホッ……」
「お、お父様。」
「はぁ……アマンダ、せめてノックくらいしなさい……。」
「も、申し訳ありません。」
「急に一体どうしたんだ、婚約破棄なんて。大体、アマンダはジェレミーを気に入っていたじゃないか。」
「……ええ。三か月前までは、お慕いしておりましたわ。」
「三か月前?」
私はぽつりぽつりと、これまでの出来事、そして今日ジェレミーから結婚の話を持ち出されたことを話した。ジェレミーの気持ちが全く分からず、そんな相手と結婚なんてしたくないことも。
「話は分かったが、アマンダ、婚約破棄は待ちなさい。」
「そ、そんな……。」
「まずジェレミーときちんと話しなさい。それでもジェレミーが改めないようなら、婚約破棄を進めよう。」
「お父様……。」
「ジェレミーと話し合うまでは、婚約破棄は無しだ。」
がっくりと項垂れ退室するアマンダを見送った後、控えていた執事が眉尻を下げながら口を開いた。
「旦那様、宜しかったのですか?あれでは、お嬢様がお可哀想で……。お嬢様に付けているバーサからも、お嬢様と同じ話が上がっています。」
「ああ。だがなぁ……。」
アマンダの父は首を捻った。
「あれほどアマンダの婚約を懇願していたジェレミーが他の女に懸想するとはどうしても思えないんだよ。」
◇◇◇◇
「うう……。お父様、今日ばかりは恨みますわ……。」
自室で項垂れ続けるアマンダを、バーサが慰める。
「旦那様も、何か考えがあってのことかもしれません。」
「うう……。」
「それよりお嬢様、婚約破棄が成功した後のことを考えてみてはどうでしょうか。お嬢様がやりたいことを考えれば、少しは気持ちが晴れませんか?」
「やりたいこと?」
経済的に余裕のある家で生活しているアマンダは、ほとんどやりたいことは日常的にやれていると言って良いだろう。婚約破棄の後を想像していると、ふと思い付いたことがあった。
「……バーサ、やりたいことは思い付かないけれど、やりたくないことは思い付いたわ。」
「やりたくないこと、ですか?」
「ええ。結婚よ、結婚!」
貴族に生まれた私は、ジェレミーとの婚約が無事破棄されても、どこかに嫁がされるだろう。しかも、婚約破棄されたという枷を背負った私には、優良な縁談は望めない。そんな縁談なんて受けたくなかった。
「結婚しなくて良い方法を考えましょう。……例えば、聖職者になるのはどうかしら?」
私の家からほど近い場所にある教会には、幼い頃からよく遊びに行っていた。地域の催しなどに参加していると、美しいシスターたちが、恵まれない子どもたちを育てたり、慈善活動をしている姿を見る。しかも数は少ないが、私と同じ貴族のシスターもおり、実家から通っているという話も聞く。
「これなら、バーサや家族とも離れなくていいし、結婚もしなくていいわ!ナイスアイディアだわ!」
「流石、お嬢様ですわ。」
そうと決まれば、早速教会で話を聞きに行こう、と玄関に向かった。近くなので馬車は断り、バーサと少数の護衛で歩いて向かうことにした。しかし、玄関で一番会いたくない人に遭遇してしまう。
「アマンダ!」
先ほど、散々暴言を吐いた相手、ジェレミーがそこにいた。
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