閑話

 仮面の奥から目を走らせれば、そこら中に死体が転がっている。男も女も見境なく……いや、女の方が死体の損傷が酷かった。


 墓を作る土地も安寧もないこの国では死者を弔う術もない。


 目的の地に辿り着いた男はフードを深く被り直し、腰の剣を抜いた。煤で汚れた分厚い扉の中からは、品のない笑い声が響いてくる。舌打ちと共に男は扉を蹴破った。


 一瞬間、その場の視線は全てこの黒衣の男に向けられた。


「しゅ、襲撃だ!迎え撃て!」


 事態を理解した最初の一人が叫ぶ。それを合図に武器を持った盗賊たちは動き出した。


 どんな人数が、どんな武器が迫って来ても、仮面の奥の表情は何一つ変わらない。初めから、全員殺す覚悟でやってきていた。


「悪いな。あの人が育つまで、お前ら蛮族に闊歩させるわけにはいかないんだ」


 大きく踏み込んで一太刀。対象不在。だが、的を外した訳では無い。


「えっ……」


 男たちの目の前で奇っ怪な事象が起こっていた。彼らの眼前にあった空間が太刀筋のまま切り裂かれている。


 歪んだ空間は逆流を生み出し、盗賊達の身体を引き寄せる。手も足も出せない空間の流れに操られる盗賊達のその後は明白だった。


 この日より十数年、国に大きな争いは生まれない。代わりに、黒い仮面を着けた男の噂が流行ったのも、また明白であった。

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