第2校舎と夕陽
部活が終わると大体5時55分くらいで、俺は先輩の協力もあり、せかせか下校を促す先生の目を盗み第二校舎に入り込んだ。
第2校舎は特別教室が連なる3階建ての建物だ。部室棟も兼ねてはいるものの、それらは総じて文化部の持ち物。彼らはキッチリ時間を守って完全に下校したようで、もうすでに校舎は静まり返っていた。だからか、いつもは感じないような冷めた感じがした。例えるなら、夜の明けきらないうちのヒンヤリ青い空気。あれが立ち込めていた。夕陽が差し込んでいたから確実に色は赤や橙だったが、青かったのだ。怪奇が起きてもいないのだが、おかしな世界に迷い込んだ心地がする。
半ば気が滅入りそうになりながらも階段を登っていく。面白いことでもあるんじゃないかと段数を数えたりしてみたが、13段。通常通りの、いともたやすく我々を裏切ってくれる階段だった。
階段を上り切ると、踊り場を経由し廊下に出る。この時点では怪異の1つも見ていない。このあと見ることができる保証も勿論ない。
一歩一歩、マア、慎重さもなく通常通り廊下を進む。3階分階段を上った後なので少し動悸が激しい。
1番南の空き教室に着いた。時刻は――
「まだ帰っとらんのか」
教室の中から男の声がした。古風な喋り方ではあるが、声変わりの最中の掠れた、少し幼い声だった。
俺は驚いて、時間を見る前に声の方を向いた。
そこには少年がいた。坊主頭に学ランをキッチリ乱さずに着ている、俺と同い年くらいの。まさに昭和の子供という様相だ。
俺は驚いたのと怖いのと意外な展開についていけないのとで、声も出なかった。
いやしかし、まだ生きた人間でないと決まった訳ではない。話してみれば分かるはず……。
「ええと……」
と思ったが、俺もそこまで社交的ではなかった。一度言葉に詰まるともう喉につっかえて何も出てこない。俺はどうしようもなくなって目を泳がせた。
「お前大丈夫か?忘れモンか?」
少年が心配する声が聞こえる。それに答えるべきだったが、いろいろな思考が頭の中をぐるぐるして、結局質問には答えずに、俺の方から問いかけてしまった。多分、今俺が一番気になっていることなんだろう。何しろ、このことだけ分かれば何もかも解決するのだ。
「……あんた、名前は?」
「お前分かってないで喋っとったのか。面白い奴じゃのう」
少年はハハハと声を上げて笑った。そして自慢気に告げる。
「甲斐田正秀だ。お前も聞いたことあるじゃろ」
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