不思議な噂

 甲斐田正秀の噂は、俺が知らなかっただけで校内では結構知れた七不思議だった。入学して半年やちょっとの我々1年生の間にも十分広まっていた。ただ、『七不思議のひとつ』として語られてはいるが、7つ全て知っている者はいないらしい。それどころか噂としては甲斐田正秀の話しか存在しないとみられる。何度か安っぽい子供騙しにもならないような噂話が発生してもすぐに自然消滅する。

 しかし甲斐田正秀の話は違う。現れては消える並の噂話と同じような陳腐な話。安っぽいし、救いようがないし、バカバカしい。なのに何故か惹かれる、みたいなキレた魅力もない。本当に取るに足らない。でも、今まで根強く残ってきた。件の先輩も、彼の先輩が先輩から聞いた話を教えてやると言った。

 ……もしやこれは本当なのではないか?

 俺は中学一年生のガキで、そしてバカだった。



「おいお前信じたのかよ。俺でもさすがに本気にしなかったぜ?あんな馬鹿みてーな話」

「やっぱバカみたいっすよね」

 俺は自然に真剣な顔になっていたらしい。先輩は少しオドオドして目を泳がせて、だんだん心配になってきたというようだった。なんやかんや言ってこの人は鬱陶しいが後輩思いの優しい男なのだ。

「何かあっても俺知らねーよ?言ってなかったけどさァ、確認しに行ったって人はいるらしいけど、その後のそいつらの話はないんだぜ?いや信じてないけどさァ」

「どうせ嘘ですって。まあ、結果は報告しますよ。期待はしないでください」

 先輩は納得していない様子だったが、一回溜息を吐くと

「おっし!分かった。そこまで言うならお前の骨は拾ってやる!」

「いっ……!」

にかっと気持ちよく笑って俺の背中をバンバン叩いた。

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