春は青空の下で輝く

!~よたみてい書

1話 放課後のひと時

「終わったぁ……」


 私は小声でささやきながら教室の窓から外の様子を眺めた。

 北京道ほっきょうどう札立市ふりつしの静かな町の風景が見え、外の景色は薄まった蜜柑みかん色の様な空模様をしている。


 その札立市を映し出している窓のガラスには、白と紺色で染まっている地味な雰囲気をまとったカジュアルな衣装を着た少女が一人、私のことを見つめている。

 彼女は何色にも染まっていない黒い髪を肩まで伸ばしているけど、なにやら髪の毛がまとまっていない。

 目は穏やかそうな形をしていて、黒目が中にある。

 胸部には小さな膨らみが出来上がっているけれど、しっかりと観察しなければ気づかないかもしれないほどだ。

 こちらを見ている少女は、年齢はきっと14歳で中学二年生。

 名前は幸薄こはくという名前を両親から授かっている。

 なぜそんなに詳細なことが分かるかというと、窓ガラスが映し出しているのは非常に薄い存在感になった私自身だから。


 伊野福中学校の授業が終わり、帰宅する時間が訪れたことをスピーカーから流れてくるチャイムの音が知らせてくれた。


 それとほぼ同じくらいに終礼しゅうれいが終わり、私が所属している二年A組の生徒たちは解放された喜びで気を緩めた様子を見せていく。

 生徒が着ている服装は、みんな私服で各々自分の個性を主張するものを身にまとっている。

 数年前からこの学校は制服の着衣を廃止していて、ファッションに関しては他人に迷惑をかけなければ自由にしていいことになっていた。

 この校則は伊野福中学校だけでなく、ほかの学校でも同じようなものになっているのかは、よくわからない。

 ただ他の学校の生徒たちも自由に衣服をコーディネートできる環境で過ごせてればいいなとは思う。

 特に夏と冬は生徒それぞれの判断で着てくる衣服で体温を調節できる状況だと非常に助かる。


 そして担任の教花きょうか先生が業務用具を抱えながら、別れの挨拶を一回済ませたら、長い髪を小さく揺らしながら教室を出ていった。


 担任の居なくなった授業が終わった教室、および学校内は生徒たちによる雑談の声でにぎやかで、そして騒がしい声で満たされていく。


 私は残念ながら、親しい同級生、同学生が居ないので、友達同士の談話の中には入れない。

 もちろん勇気を出してその輪の中に入れば参加はできるけど、きっと私のような地味でおどおどした奴が陽気な雰囲気を壊してしまうのは、実際に行動しなくても容易に予測できる。

 そんなことにならないように、私はガラス窓が映し出している自分の姿のように、存在感を薄くして周りに迷惑をかけないようにしよう。


 私は机脇に引っ掛けていたバックパックに手を差し向けていく。

 ちなみにこのバックパックは縦長の長方形をしていて、リュックサックともいえるし、バッグともいえる、デザインと機能性ともに中間的な入れ物になっている。

 授業で使う教材や弁当と一緒に入れてあった一冊の小説を取り出し、机の上で右手でページを開き、前回の続きから読み始めた。

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