第21話絶対だからねと言われても、今ですかその話?

 兎に角昼夜の二食分を作ることになった。

 朝は各自行うが、昼夜は君の手料理が食べたいとのたまうのだ。

 どうしてそういう可愛いことをいうのかな。


 まずは何が食べたいか、だが、とりあえずない物しかないだろうから、ほとんどの材料は買ってきたつもりだった。

 何を食べたい?と訊ねてみると、甘酢あんかけのかかった肉団子という。

 ナニソレ美味しそう。


 豚レバーの臭み抜きを牛乳でしている間に、豚ひき肉を調味料を入れて混ぜる。

 隠し味は何?と言われて、私そう言うの習ってないから分からないと言う。


「こういう隠し味って、入れて出来る人は相当料理になれてる人よね。でも、慣れてない人が入れたら、きっと不味いものが出来上がるに違いないわ」


「へえ~、そう言うもん?」


 真二はそういう物か?俺の母さんとかは結構カレーにチョコとか入れてたと言うのだが、それは存外慣れてる人だ。

 だが実際に一番美味しいカレーは、カレーのパッケージに書いてあるやり方で作るのが最もおいしいと言われている。

 そんなうんちくをまみこが唱えると、料理上手な人ほどコーヒーを入れたりなんだりとして、美味しいカレーから遠ざかるのか?と聞かれて言葉に詰まった。

 実際に遠ざかる人も居るだけに何と答えればいいのか分からなかったのだ。


 だが、あまねがそれをストレートに言ってしまった。


「料理上手な人って言ったでしょ。下手な人も居るから、料理上手って思いながら、気が付いたら妙な味付けになっていたりするわけよ。しかも自分じゃ料理音痴って気づかない人もいるわけで……だから大変だったりするのよ?」


「え、隠し味入れる人って総じて料理上手じゃないの?えええ」


「それは偏見ね、つまり偏見。どうあっても偏見。 だからこそ、美味しくなるように皆頑張るわけだけど、出来ない人も居るのよ。それこそ味付けが濃すぎたり、味が薄すぎてなかったり、異臭がしたり、明らか焦げるまで毎回やるか生焼けになるかとか。盛り付けがぐちゃぐちゃなんてのは可愛い方ね」


 ネットでその手の記事を見つけて、タブレットで寄越してくる慎太郎。

 メシマズ嫁って言うんだよと言うと、自分はまみこの元で楽しくピーマンの種を取っている。

 このピーマンの種だが、夏場のピーマンだったら、そのまま食べることが出来るのだ。

 といっても四角いピーマンで、三角のピーマンは食べられないとされているそうだ。

 農家の人が教えてくれた。

 今の季節は春だ、まだ早いため種は食べないつもりである。

 余った分をピーマンの肉詰めにしてくれと言う事だろう。

 明日のお弁当のおかずにでもするに違いない。

 何てやつだ。

 私は御夕飯を作ってるのであって、別に昼ご飯を作っているつもりはないのだけれど――と思ったが、どうせならば三人分作ってしまおう。

 自分の分だけは弁当はなしにしないと行けないが――弁当が出るため――黒服の分を除いた分を作るべきだろうと思い直した。


「それでいい?」


「いいよ、全然いい!俺の分と彼ら二人の分作ってくれるならいいよ!ありがとう!」


 鼻歌でも歌いそうな慎太郎に、まみこは照れくさい思いを抱いていた。

 でもお弁当が嬉しいなら作ってあげたい。


 肉団子をたっぷりの油で泳がせれば、じゅわりと音がいい音がする。

 匂いも良い匂いがすると、皆で引っ越し祝いをまだかまだかと待っている。


「でも良かったの?油もの使うってことは、火傷厳禁でしょ?」


 気を付けなくちゃと言われ、ハタと気が付く。

 道理であの部屋、料理するための道具が一切ないと思った。

 だからだったのかもしれない。

 一応指を怪我しないようにと、セラミック包丁を買ってきたけれど、何と言うか我ながら面倒くさいことになったものだと思う。

 でも、毎日コンビニ弁当では身体に悪いし……


 まみこはちゃっちゃと肉団子を全て上げると、次にフライドポテトを作ってしまう。

 どっちにせよ揚げ物を始めてしまったのであれば、一気に沢山の揚げ物を作った方が余程いい。

 他にも豚バラの塊を少し厚めに切って、酢豚にするため揚げてしまったり、てんぷらを開始したりと大盤振る舞いだ。

 10人もこの場に居るのだから、これくらい作ってなんぼだろう。


 野菜を揚げたものをつまんでいると、慎太郎が一口と言う。

 先ほどから揚げるのだけは変わってくれている慎太郎。

 とてもたすかるけれど、あなただって火傷をしている場合じゃないだろうに。


「身体が資本なんでしょう?その身体には今、10億円の保険金がかかってるって聞いたよ。だから、今火傷してる場合じゃないからね。分かった?」


 でも揚げ物食べたかったから有難うねと言われれば、苦笑してしまう。

 そうか、この身体は、怪我をするだけで莫大な保険金が下りる――じゃあ、肉体が入れ替わった今は?

 そう言いたかったけれど、言いたかった言葉を飲み込んだ。


 甘酢あんを作り、肉団子に絡めてまず一品。

 この上にゴマを振りかけて、テーブルに出しておく。

 一つはアイランドキッチンのテーブル部分を使う形で、もう一つはダイニングのテーブルを使おうと言うことになった。

 テーブルはどちらも6人掛け。

 十分な広さがある。


 ひき肉が余ってるから、半分をミニハンバーグにして、もう半分をピーマンの肉詰めにする。

 ピーマン単品で生でも美味しく食べられるのだけれども、その方法で出してもピーマンの数が足りないから止しておく。

 ただし酒のあてにはもってこいと言うことで、こっそり一品作って出した。

 慎太郎がこれを好きなのだ。

 いそいそとテーブルに持って行って、一口パクリ。


 作り方は簡単だ。

 ピーマンを千切りにしたら、そこに塩昆部長をぱらり、ごま油をすいっと回しかけて和えたら完成である。

 超簡単なのに生でピーマンを食べられるようになる優れもの。

 昔居酒屋で知り合いが習ったと言っていたので、作り方を習ったのである。

 また聞きだったが無事成功し、慎太郎のピーマン嫌いが治ったというわけ。


 真二がピーマン嫌いらしいが、これもこれで治ればいいなと思う。

 まあ、生で食べているのを見て、叫び散らかしているのを見れば、無理だろうとは思うけれど。


 豆腐をチーズのようにするために、塩を塗りたくり、時間を置くと水が出て来る。

 これにバジルソースをかけて摘まむ。

 チーズのような味になるため、美味しいと一時期テレビでやっていたのである。

 結構好きなのでよくやるが、今回豆腐は買ってこなかった。

 と言うより、揚げ物祭りだったため、揚げ出し豆腐を作ってしまってもうない。

 締まったなあと思いながら、だしを取って、それに今度は大根おろしを添えれば完成だ。

 みぞれつゆである。


 レパートリーがあまりないから、どうしようと言いながら、長袖長ズボンで、顔にもマスクとゴーグルをさせられて調理をする。

 ここまでしないといけないのねと思うが、身体に火傷後何てつけたらどうなります?と先ほど一度電話で聞いているのだ。

 マネージャーから殺すからなとどすの聞いた声で言われてしまっては、駄目だろうと思った。


 きっとまみこが考えている以上に、身体が大切な仕事なのだろう。

 だが、そこまでする必要性はどこにあるのだろうか?とも考えているのだが、まみこは理解していないだけで、美容製品にもキャラクターとなっている物があり、美しく居ることは彼女に――ランにとって重要なのである。

 そのことを知っているのか知らぬのか、慎太郎はニコニコ顔だ。


「俺、絶対にマミコさんと結婚しますから」


「え………」


「絶対に、その身体だとしても俺は引かないから」


「それは……」


「絶対に結婚するからね。式場予約はまだいいから、日付延期してでも必ず挙げるよ、式を」


 それだけは絶対だからと言われれば、まみこの顔はほてって赤くなっていた。


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