第14話ガラス瓶より素焼きポットってたかいの何で?

 ポーションを購入してくるためにも、一度異界渡りをしてくる必要があるだろう。

 ということで、三人は深夜ランの居室から忽然と姿を消して、異世界の宿屋に戻って来たのであった。


「霧は薄くなってきてるけど、あるね」


「今度は塩と醤油を20本にしてみたよ、全部ボトルに詰め替えてみた。どうかな?」


「確かにね。こっちでビニール袋がどう扱われるか分からないし、ビニール容器もそうでしょ。燃やしたら真っ黒い煙が出るだろうし、醤油ボトル何て洗えないのに濯いで使ってカビ発生何てなったら困るだろうしね」


 破けない頑丈な袋とか、中々壊れそうで壊れないビニールの容器に対してどう扱っていくか分からないのもあるが、そもそもこれを燃やしていいのかが分からない。

 捨てるという選択肢もそうだが、燃やす以外も濯いで使われては困ってしまう。

 元から昨今の醤油ボトルというものは、濯げる構造になっていないものが増えて行っている。

 真空になるように作られているボトルのことだ。

 新鮮なまま使えるから味持ちがいいから買ってきたが、再度使われては困ってしまう。

 なのでコルクで蓋をするタイプのボトルを買ってきて、これに詰めた。

 雑貨屋万々歳である。


 雑貨屋で買ってきたコルク蓋のボトルだが、これを幾つも醤油を入れて持っていく。

 大体20本の醤油が60本に化けた。

 これを無限倉庫にぶち込んで――さて、後はこれを商業ギルドに持っていくだけである。

 室内は比較的マスクが必要なさそうであっても、危険度が未知数なため三人とも防毒マスクが手放せない。


 こちらの世界の住人は、予想通りマスクをしていた。

 それもまみこ等三人が思ったよりも重武装をしていたのである。

 何かの皮で作った袋が両頬に垂れていて、ガスマスクの空気袋を担っているようだった。

 そして恐らく目は関係無いのだろうが、それでも半数以上の人が目にまでゴーグルをつけて生活をしているのである。


 早くこれを失くした生活を送らせてやりたい。


「俺思うんだけどさ、堕ちた神さまの亡骸からこれって出てるん?」


「あの話を聞いた所、生きているか死んでいるかは分からないけれど、今暴れて酷いことになっているとは聞いていないから、死んでいると希望的観測として言わせて貰うわね」


「そうね、あまね。そうよね。確かにそうなっていてもおかしくはない。――けど一応用心のため、生きている前提で話をしよう。 生きているとして、堕ちた神が居る限りこの霧は結論晴れないわけよ。だから思うに、」


「あー、そかそか。俺等神様退治もしないといけないわけかよ。マジかあ。交易だけで済むと踏んでたけど、勇者ごっこもやらないとじゃん。マジかあ……」


「それについては一応あの朱塗りの建物――神殿って仮に呼ぶけど、神殿で神様と話し出来ないかな?」


「出来るんじゃないかな?とは思うけど出来なかったらと思うと怠いわ」


 怠いわあと言う真二に、あまねは肩を叩いて鼓舞する。

 やる気がないのは仕方ないけれど、やらないといけないのは確かなことだ。

 それが例え亡骸だったとしても、瘴気を発し続ける物体をそのままにしてはおけないのだから。


「だからってことは、私達ってば、自分の肉体探し兼、神さま退治も請け負わないといけないのかって事よね。聞いてないからそっちだけは一旦後回しにしましょう。兎に角実戦経験が乏しいんだから無茶をしない!これに限るわけね」


 あまねにそう言われて、そうだなとまみこは頷いて見せた。

 コピーマスターで大賢者の遺志を模倣出来るようにはなったが、実際、こと実践となると別だろうと言われれば頷ける。

 そもそも生き物を、瘴気の中蠢く悪しきイキモノだからと言って、屠れるかと言われれば難しいかもしれないとも思っている。

 これはサバイバルではないのだから。

 マミコ達はきちんと自宅に帰れないだけで、地球に行けるのだから、無理をしないで生活をしたいとも思う。


 ただ――


「七年で捜索していたとしても見つからなければ戸籍登録抹消なのよね」


「ええ、そうなのよ」


「じゃ、じゃあ!七年が俺等に残されたタイムリミット!?長いけど短いぜ!?だって俺等、肉体見つかるって保証まだないじゃん!」


「そうなのよ、タイムリミットは決まっているけれど、何もまだ展望が開けていないの。だから私焦ってるの。あっちでアイドル活動もしないと、ランさん?の、戻ってきてからも大変じゃない。だから下手を打てない」


 そうは言うが、まみこだけにそれでは負担がかかり過ぎているように思う。

 だが、まみこがやらないわけにもいかない。


「まあね、負担は大きいけど、その分見返りに、勝手にだけどランさんの部屋を使ってるわけだしね。大きくて三人が隠れ住むにはもってこいの部屋だから、いいっちゃいいんだけど……ね」


「そうだな」


 真二位だ、部屋が大きい、流石ランだなと言っていたのは。

 あまねも残された不動産などの遺産を使い、一人暮らしには十分な家を建てていたらしい。

 まみこもそうだ。

 慎太郎と暮らすための家を建てて暮らす予定だったのだ。

 だというのに――


「大きな部屋だからっていいわけでもないわけで」


「そうだね。俺も思うよ。あの部屋がらんどう過ぎ。何も部屋に無いもんな。 きっと、室内で何かやるのが大変だったりするに違い無いよね」


「どういう意味?」


「だから、室内で何かを用意することも出来ない程に時間がない子だったんだよなあって。だから大変だったって言ってるじゃん」


 真二からそう言われるとあまねとまみこは顔を見合わせて、ああと言葉にならない声を零す。

 確かに人間忙しくなると家の中は何もないか、ものだらけになるところはある。

 そう言った事だろうと思われたが、なんだかそれを想像すると悲しくなった。

 趣味らしいものも何もない、そんな中あらゆるものが無い部屋には、趣味部屋の一つもなく、収集した物すらないのである。


 偶像の裏側を見てしまった気分だった。


 塩をこちらもコルク蓋の瓶に詰めて持ってきている。

 砂糖もだ。

 大量にスーパーを梯子して買ってきた。

 ガラスに入れても良かったのだが、素焼きポットにした。

 それは何故か?

 簡単な話なのだが、ガラスがどの家の窓にも無かったのである。

 だからガラスを用意するのは早すぎるかと思い諦めた。

 だから逆に素焼きポットと言う高い物に入れてきたのである。


「ガラス瓶の方が断然安いのにね」


「100均で売ってるしね」


「ほんとそれな」


「雑貨屋でこれ買ったとき目玉飛び出るかと思ったよ。ガラスより高いんだもん」


 あまねが有り得ないわねと思ったというと、違いないと真二が笑う。

 マスクをつけては居るが、こんなひと時が続けばいいと思った。


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