第12話初舞台ですって!頑張ります!

*****



 スタジオで生番組のためのリハーサルが行われる。

 そこで先ほどの歌とダンスを行うけれど、まみこは全身全霊を持って踊り、歌った。

 するとOKを貰えたわけだが、本番はもっとやれますかと言われる。

 何をやれるんだ馬鹿。

 今が全力だよ馬鹿とまみこは内心であざ笑う。

 自分のレベルなんて自分が良く知っている。

 これ以上は無理でーすとあっかんべーと内心で舌を出すが、実際は無理ですねとここまでしか出来そうにないと言ってみる。

 そうしたら、あれあれ?と人が出て来る。


 番組のプロデューサーと名乗る彼は、いつものランちゃんじゃないみたいじゃない!どうしたの、礼儀正しいし今日の方がいい感じと言われる。

 そりゃあそうだろう、一応こちとら名家で育てられたお嬢様やぞと考えるが、それをおくびにも出さず、そうですか?と聞いてみる。

 うふふふふ、値踏みされてる感じがして凄く嫌だと真二とあまねの方に寄っていくと、二人はすすすと逃げていく。

 おい、何で逃げる。


「その二人は?」


「ちょっと体調不良だった時に二人に助けて貰ったんです。それでこの後家に招待して持て成すって約束したんですよお」


 ――という事で聞かれたら言っておけとマネージャーからは言われていた。

 記憶喪失で何をされたんじゃないかかにをされたんじゃないかなどと、余計な事を噂されないためだと言われた。

 だから今は二人は見学者ですと答えれば、あらまあそうなの、体調不良ってどうしたの?


「貧血だったんですぅ」


 それでですね、倒れていたところを助けたんですよねとあまねが言えば、真二がわ、私のナプキンを渡してそれでと――そう言う話にしようとは言ったけれど、真二は男だ。

 男子高校生に何やらせてんだろうと思わなくもないが、致し方ない。


 真二の犠牲は出たが、何とか誤魔化せたところで、プロデューサーに今度奢るから食べに行こうと誘われたので、是非にと答えておいた。

 こういう時は断らない方が吉である。

 だが、マネージャーはぶんぶんと首を振っていた、何故だ?


「行きつけのバーに行きましょう」


「え、私まだ19だったはz「いいじゃないかあ!大丈夫だから、ね?」


 これが芸能界かよとまみこは悪態をつきたくなるのを堪えて、20歳になった等連れて行って下さあいと答えておく。

 猫なで声で言っておけばいいだろう。

 これだけの美声で言われるのだ、嬉しいはず――実際相当嬉しかったようで、嬉し気に脂下がった顔で絶対だよと言われる。

 OKOK面倒ごとはこれで回避出来たぜと思っていると、あまねに肘で小突かれた。


「なにやってるのよ。あっぶないなあっておもっちゃったじゃんね。もお~」


「あははは、えへへへ・・・まあ、どんまい!」


「どんまいじゃねえよ、俺も焦った。何してんだっての。スキャンダルとかもシャレにならないからな。その身体返すんだって一応思ってんだろ?」


「ん」


「だったら魂の消滅くらいで嘆くなよ。絶対に何とかして貰おうぜ」


「ん!そうだね!」


 出来ないかもとかは言ってなかったと思い出した三人は、魂の消滅でどうにもならないとは言われていないと思い、後日聞いてみることにしたのだ。

 すると魂の消滅から時間が立つ前に朱塗りの建物のあった世界で何かがあったらしいということで、その残留思念のようなものが生まれているため、集めてくれば何とかなると聞いているのだ。

 だから、何とかなる――一縷の望みをかけて皆立ち上がった。


「あまねにも真二にも関係ないのにごめんね。でも、ありがと」


「いいのよお。私達も関係あるっちゃあるもの。一蓮托生よねえ」


「そうそう。俺等仲間じゃん。同じ目にあってる。だからあんまり気にすんなよ」


「ありがと」


 優しくて涙が出ちゃうと涙をぬぐっていると、マネージャーがどうしたと声を掛けてきた。

 そろそろ本番らしい。




*****



 舞台中央を見る。


「すげー、ツイストと、ラブイージーじゃん。まじかっけえ」


「名前全然分からないけど、恰好良いんだねとは思うよ。そろそろ、まみこの出番だね」


「んあ?そんな時間?おお、出るぞ出るぞー・・・きたあああああ!」


 大声を出さない限りスタジオに居ていいと言われている二人は、まみこの雄姿を一目焼き付けようとしていた。

 小さな声できゃいきゃい言っている二人に、おかまさんと女子高生なのかなと思っている。

 どういう繋がりなのかは分からないまでも、従姉妹だと言っていたから多分そうなんだろうで皆聞き流し、受け入れていた。

 そんな二人はただいま口を押えて小さな声で絶叫をしていたため、周囲から奇異の目で見られている。

 まあ舞台に席を用意されているのだから、そこに座ってきゃあきゃあ言っていればいいと言われたのだけれど、まみこの心境からしてランとして見られるのは嫌だと思うので、二人は遠慮がちに小さな声を上げていたのだ。


「――では、次はトゥエニーの新曲です。スパーク!!」


「きゃあああああああ!!」


「らーん!」


 舞台に向けて皆がラブコールを送る中、まみこはランとして舞台に立つ。

 ステージに立ち、マイクを握りしめた。

 輝くスポットライトが彼女を照らし、100人ほどの観客が彼女を見つめていた。

 まみこは深呼吸をして音楽が始まるのを待っていた。

 曲がスタートする。


「――――♪」


 彼女の歌声は美しく、情感にあふれていた。

 ステージ上でのまみこのパフォーマンスはまるで物語を語るように繊細で、力強いものだった。

 まみこは指先を頭上に掲げ、そして全身を捻って声を張り上げる。

 たった数分のパフォーマンスだが、彼女は魂を燃やすほどの絶唱をしていた。


 まみこは最後まで歌い上げ、ステージから降りた。

 観客は皆ランを称えていた――その瞬間、まみこは歌を歌うことでランは自分の中で生きているのだと感じたのだった。


「――でも、毎日はこれきっつい・・・・かも」


「でも?快感だったんでしょ?楽しそうだった」


「わ、分かる?」


「俺も分かっちゃった。嬉しそうだったもんまみこさん」


「え、えへへ・・・・」


 ちょっとだけまみこ、慎太郎さんから歌に気持ちが行きました。

 すみません慎太郎さん、きっと必ず会いに行くから――。


「アンコール、アンコール」

「アンコール、アンコール」

「アンコール、アンコール」

「アンコール、アンコール」

「アンコール、アンコール」


 こうしてまみこの初舞台は惜しまれつつも終わったのだった。

 ――と、こうしてまみこの異世界とランとしてのアイドル活動で、二足の草鞋生活が始まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る