第11話絶対模倣起動!ダンスと歌をコピーせよ!

 曰く、ランの体調は悪いらしくて、コロナかもしれないだとか、陰性か調べているからまだ出せるか今晩の生番組は分からないとの事。

 駄目だったらコロナ陽性かもしれないんだってー、そしたらフェスどうすんのーと言われて、ランことまみこは青ざめた。


 どういうことになってんの!?


 まみこが焦っていると、挙動不審気味になっているのを店員が訝しむ。


「あれ、お客さん、何処かで――」


「何でもないです。有難う御座いましたー!」


 慌てて三人でワークマンを飛び出した。

 買ったものを持ち出して、ぜえはあと荒い息を整える。

 何でこうなってるのか分からない、隣のおもちゃ屋に駆け込むと、とりあえずどうする?とまみこと真二は言う。

 あまねは息が整わないのか辛そうだ。


 まみこの身体は運動をするアイドル。

 真二の身体は女子高生で運動をするだろう。

 けれどどうやらあまねの身体は運動をしない男性だったらしく、元から日ごろ運動をしないあまねがそこにはいるともう駄目だった。

 歩けないと即座に言い出すのである。

 メンタルもフィジカルも相当ダメダメだった。


「も、いいでしょ、隣のとこきたし」


「マスクキッツいけど私マスク今取ったらアウトだわ。コロナらしいじゃんか」


「だよねえ。なってるかもしれないなら家に居ろって言われるぜマジで」


「だよねえ・・・」


 兎も角どうすべきか、一旦あちらに戻って話ししよう。


「違いない。そうしよ」


 おもちゃ屋を出たところで、暫く歩いて、裏路地に出るところで声を掛けられた。


「み、見つけたあああ!ラン、どこ行っていたんだ!!戻るぞ!!」


「ええ?!えでもあの私違うって言うか待って!!」


「あんたらがランを連れ回していたんだな!今日は生番組があるのに!!」


「違うんです!!ええっとー・・・・・この人達が私が体調悪い中、介抱してくれてぇー・・・・・えっと!だから!お礼をしたいと思って、私家に連れて行きたいんです彼らのこと!」


「はあ!?何!?ええでも、助けて貰ったのね!分かった、今から暇ですかお二人とも。暇でしたらそのまま連れて行きますから来てください!」


「ええと、つ、ついて、い、いっきまーす・・・・」


「おねがい、しまーす・・・・」


 恐らく勢いに皆負けた感じにはなっているというか見えているのだろうが、実際はあちらで待ってるから適当に撒いてこいと言いたいのに違いない。

 だけどまみこからしてみれば、二人と別れるわけにいかなかった。

 こんなところでどこかに連れて行かれるのは恐ろし過ぎた。


 大体なんでこんな分けのわからない裏路地何かにいるんだよ!

 確かにここはどうやら東京都内の様子だが、それだってなんでこんなところに居るのだか、と思う。


 アイドルなんだから、おしゃれなブティックとかを探すなら分かるのに何でこんな何もない所で――


「色んなところを張ってたのよ!きっとあなたなら路地裏で捕まるからって言われて、嘘だと思ってたらほんとだったわ!」


「何で路地裏!?だっ・・・・嫌なんでも無いんですけど。私、実は記憶があいまいだったから、彼らに助けて貰ってそれで難を逃れてるんですよっ!だから彼らも連れて行きますからねっ」


 分かりました?と言えば、はいはい、いつものランの気まぐれねと取り合わない。

 別人だなんて思ってもみない風だった。


 三人はその後そのまま都内のスタジオに連れてこられた。

 今日の番組をどうにかしないといけないからと言われているのだ。

 今からピッチあげて何とか仕上げるよと言われて青くなる。

 せめてコピーマスターを起動してからにしてほしいと思った。


「あの、記憶があいまいなんですってばっ。だから記憶がここ三日くらい抜けてて、踊りとかも抜けてるんです。だからダンスの講師とか居ますよね。そう言った人の踊りを見せて欲しいんです」


「あんた、大丈夫それ?今日休むわけにいかないけど・・・どうしようかしら?」


「あーしらが教えるよ。パート覚えてっからさ。いくよー、ラン。こっち見てて」


「い、あ、はい!!」


 コピーマスター起動、全身の動きを覚えろっ!!


 ダンススタジオの壁際で、その動きを覚えるため、眦までをかっぴらいた。

 すると、曲がかかり、ダンスが始まる。

 最初はゆっくりと踊っていたが、次第に曲調が早くなり、彼女の動きもその速さに合せ動きを加速していった。

 これなら出来る。

 まみこは気づかないうちに、コピーマスターの最大レベルになっていたため、最大レベルの恩恵を知らなかった。


 鏡映しに彼女は踊る、踊る、踊る。

 自然とまみこは踊っていた。

 ランのパートを。

 身体が覚えているからという者ではなかった。

 むしろランよりも余程その動きにはキレがあり、華があった。

 指先までの動きが優美で、その美しさに皆息を飲む。

 スタジオの中には彼女の踊りを見るために多くの人が来ていたけれど、その人達をまみこは気にしている余裕などなかった。


 ただ音楽に乗って踊り、目の前の彼女の動きを覚えるのに必死だったのだ。


 最後にまみこは音楽と共に――実際は目の前の彼女と共に踊りを終えたが、スタジオの中は拍手でいっぱいになった。


「いつもよりよっぽどいいよ!」


「そうよ、余程いいわ。ダンスにキレがある!やる気出せば出来んじゃんよー」


 と言われて、有難うと返せはしたものの、複雑な心境だった。

 まみこはこれをしたいわけじゃないのに、コピーマスターはコンマ数秒のずれで全てを丸丸模倣してしまうのだ。

 だから出来た。

 後は歌だけだ。

 ランの歌う映像はあるか問えば、有ると言うが、何に使うんだと問われ、カメラ映りとかリハ分でいいから見せて欲しいんだと言った。

 まみこは必死だった。

 兎に角まみこは諦めていないのだ。

 ランが戻ってくるなら、戻ってこれるところを用意しておかないといけないと、必死だった。


 でもそれは、ランだけではなく、まみこも同じだ。

 まみこも戻れる場所が欲しい――そして、まみこは元の場所に帰れると思いたかったから、せめて今のランの肉体に自分がしてほしい事をする。

 それはまみこの信念のようなものだった。

 人にしてほしいことをしておく、だから――これでいい。

 誰もまみこをほめなくても、ランをほめても、今は私がランだから。

 代わりをやるのだ。


 あまねが気になったようで、大丈夫?と訊ねて来るが、まみこはえへへと空笑いする事しか出来なかった。


 大丈夫じゃなかったからだ。

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