第5話生い立ち

*****



 起きろ、起きろ、起きろ



「んぅ・・・・・んんん?」



 起きたか、起きたか、起きたか



 何?どういう事と周囲を確認して見ると、真二とあまねが倒れていた。

 慌てて二人を起こすと、ようやく全員起きたかと三度声が同じ言葉を紡ぐ。

 それはリフレインのように、何度も何度も淡く鼓膜を奮わせる。


 我らはそなたらに力を与えた神である。

 その代わりにと言っては何だが、この停滞した世界に交易という形で良いので、波紋を投げかけて欲しいのだ。


「波紋ってなんだ?」


「なにをすればいいの?」


「力を与えた?何を・・・・・何も貰って何ていないわ!」


 どういう事なのだろう、たとえ神だと言われても――いいや、まみこからすれば現実に有り得ないことが起きていても、神を自称する存在が出て来るなんて有り得ないとかぶりを振って否定をする。

 すると自称神は言うのだ、ならば証明をどうしようかと。

 何なら納得するというのだねと言われ、まみこは困惑する。

 何であっても納得はしたくないのだと読まれているかのような声音に、ひやりとした物を感じたのだ。


「えと・・・・納得はいいの?」


「・・・・うん・・・」


「そっか、じゃあ聞くね。私の元の身体はどこにあるのでしょうか?私の身体を返してください」


 此方にそなたたちを呼んだのは私だが、魂だけを呼んだゆえ、他の事は埒外だ


 ではどうしたらいいのか?


 三人は顔を見合わせ困り切った。

 ようやく姿を戻せると思ったのにそうはならなかったからだ。


「私は身体を返して欲しい。そして元の世界に返して欲しいの。それが出来ないならあなたを神とは認めないわ」


 強気に言い返すまみこに、二人は戸惑った様子だった。

 認めないと言っても、証明を求めないのだから、もう本当にただ認めたくないというだけ、なのだろうと分かったからだ。


 そもそもここは一体どこなのかと、あまねは問いかけた。

 自称神に自分はマミコと別のことを問いかけてみたのだ。

 もしかしたら一緒くたにされて困ってしまうような事を言われたからかもしれなかったが。

 だとしてもここで自称神に捨てられるような真似をするべきではないと思ったのは確かだろう。

 あまねは興味を引こうと自称神に向かって矢継ぎ早に質問を飛ばし続けた。


「私たちはどうしてここにいるのか?という事は分かりましたけど、肉体がどうなったのかは分かりませんかね?」


「あ、俺もそれ気になってます」


「神様って言うのは何が出来るんですか?私たちの世界だと何もしてくれないのが神さまなんですけど、何かできるのであれば、トイレを教えてください。それと食事になりそうなものがありませんか?」


「俺も!今すっげ困ってます、女子のアソコ何て見られないし、見たら怒られるじゃすまねーだろ!どうするんだって思ってるんだけど、下半身だけでも俺に戻せませんか!?」


「とんだクリーチャーだよ、下半身だけすね毛ぼーぼーのチンがついてるクソ仕様かよ、ありえねーだろうが」


「何で俺の下半身そんな嫌われてるの!?マジで俺イケメンじゃないけど、別にそこまで悪い見た目してないぞ!?」


「顔だろそれは、下半身はぼうぼうなんだから黙ってそのまま受け入れとけボケ」


 ふざけるな、可愛い容姿をしているんだからそのままでいいだろうが。


「あー!!!ってか、思い出した、頭今はっきりしてきたけど、その顔って、トゥエニーのランだろ!?何で!?じゃあ、ランもどこかに連れて行かれてるのか!!マジかよ、今度のライブのチケット俺買ったのに、行けねーの?!」


「はあ?!誰が誰ですって?」


「マミコ、あなたよ。確かに言われてみれば似てるって言うか、本人よね・・・・頭がおかしくなってたのか、今まで全然気づかなかったけど、間違いなくランだわ。それかそっくりさんだけど、そんなレベルじゃないそっくり度だから、きっと当人よね」


 嫌だ、有名人と言われ、あんぐりと口を開けてまみこは呆然とする。

 誰が、誰にだって?


「いやよ!アイドルでしょそれって!結婚が出来ないじゃない!わたしは慎太郎さんと結婚するの!だから駄目よこんなのは!!」


 自分にとっては優良物件の彼は、正直何でまた自分を選んでくれたのか分からないレベル。

 まみこは放置子と言われる子だった。

 そのまみこを育ててくれたのが、その家の父母だったのだ。

 慎太郎の両親に育てられ、慎太郎と結婚するんだと言われた。

 放置子になっていたが、実際は相当な名家の家の出だったまみこ。

 母により家を追い出されるという意地悪をされていたが、慎太郎の両親によりしっかりと保護を受けていたのだ。

 よって何とか大事にならず育つことが出来たと言えた。


 母は跡取りの息子――孫さえいればいいというような考えの持ち主が義母だったため、息子を産めぬような産女などいらぬという嫁イビリをされていたらしい。

 そういった結果、まみこを放置して憂さ晴らしをしていたらしいと聞く。

 けれど真相を知った後も、遠い親戚関係でもない慎太郎一家に育てられたという状況は変わらない。

 結果、母に大人になってから泣きつかれたけれど、いっそ私を放置したままでいてくださいと投げ出すことにしたのだった。


 そんな経緯もあるため、慎太郎と結婚する事が今決まっているまみこは、他の人に慎太郎を取られるわけにはいかなかった。

 慎太郎は良家の子息だ。

 確かにまみこもそうだが、まみこは女子であるため、母曰く、祖母が早く嫁ぐべしと言って聞かぬらしいのだ。

 だからあの家に居場所何て元から無かったけれど、早く出て行かなければならないのだから、こんなところで足を止めている場合じゃないのだ、まみこは。


 一気に身の上話をしたまみこは、真二に辛いって言っても、新しい家族出来たのにそれを失いそうなのか、じゃあ急ぎじゃん。

 あまねはと言えば、自身が天涯孤独と言っていた通り、身内らしい物が居ないらしいため、それは同情もされないかと思ったが、私は親に相当大事に育てられたから、羨ましがられるレベルだからなあと何とも気難しそうに言われるのだ。


「という事だから、身体を返して貰わないといけないの!わたしは!!」


「分かった、分かったけど神様がそんな事情考慮してくれるかなあ?だって私達を連れてきたけど、魂だけを呼んだよ、他の事は埒外だよってことは、関係ないですって言ってるよね」


「・・・・・そうなのよね、そう・・・・もう、分かった、話を聞きます。だからせめて身体を取り戻すための手段を一緒に考えるとかしてください神様」


 それは良かろう。



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