第2話コピーマスターって何なのよ

 時は少し遡る。

 どうしてこんなことになっているのか語らせて貰おう。



 綾小路真美子は酷く現実的な女だ。


 幽霊話をしたとしても、それで、どうしてそんなことになるのか、解明をしないといけないと思う、などと言ってしまったりする人間だ。

なんでも不明瞭で済ますことのできない人間なのだ。


 けれどその現実的な女に、なぜこんなことが起きたのか分からないでいる。


(ここはどこなの?)


 朱塗りの建物がずらりと続く、人気はないようだが、何処か中国風な建物に、圧倒される。

 いいや、もしかしたら沖縄の首里城も似ているかもしれない。

 ああいった雰囲気の建物が立っていた。


 その建物の中に入ってみようと思ったのは、雨が降り出したからだ。

 人気も無いし、入るのは躊躇われたのだけれど、入ってみた。

 本当にここはどこなのだろうか?


 先ほどまでは家にいたはずなのに。

 祖父の代から続く家で、近々取り壊そうと言う話をするつもりだった。

 祖母は大反対しているが、危険だろうから仕方ないということだった。


 そんなことしたら神隠しに合うんだよあんたら、駄目だよ――そう言っていたっけと不意に思い出す。

 どういうことだ、これがまさか神隠しだとでも言うつもりか。

 馬鹿らしい。

 とは思うけれど、一瞬で別の場所に移動している。

 しかも寝ていたわけでもないから、誰かに連れ出されていることもない。


 腹が立つわ。


 不条理だ、全くもっておかし過ぎる。

 けれど認めたくも無くてイライラしている。

 が、それと同時に寒々しくも苦しくて――一人で恐怖も感じていた。


 一人きりでわけのわからない場所に居ると言うのは怖いのだと知ったまみこは、精いっぱい虚勢を張っても無意味だと知っていた。


 朱塗りの建物の中は、本当に和風と言っていいのか中華風と言っていいのか分からないような建物で、上から吊灯篭がぶら下がっている。

 ところどころにそれがあるのがまた恐ろしい。

 吊灯篭からきい、きい、きい、音が鳴るのだが、それが妙に雰囲気を出していて恐ろしいのだ。

 その音がこの館の主は御前ではない、何を入ってきているのかと言われているようで嫌だった。


 あまりにも薄暗い中嫌で、吊灯篭を一つ手に取ってみる。

 暖かく柔らかい灯りなのに、別に熱を持ったりしていなかった。

 ナニコレ――ぞっとしたまみこは思わず灯篭から手を離す。

 けれどその時勢いがついていたらしく、灯篭は吊っていた部分から勢いよく剥がれおち、がん、がん、がらん!

 地面と朱塗りの壁をけたたましい音を立ててそこかしこに叩きつけられながら落ちて行った。


「ひっ」


 喉の奥から常よりも高い音がする。


「え・・・・・声、が、誰これ・・・」


 声が異なる、誰だこの声は、発している者は。

 自分が自分ではなくなっていることに驚き、恐怖する。


 鏡を探して唐突に走り出したまみこは、朱塗りの建物の一番奥で見つけたのだ。

 木像――であると思しきそれを。

 人影に見えなくもないほどにボロボロの木像は、人の形を取ってきたであろう痕跡が垣間見えたのだが、それは歴史と共に風化している様子で。

 欠片のようなものが、沢山木像の足元には落ちていた。

何が置かれていたのだろう?

 ――いいや、それより鏡を・・・・


 木像の足元にきらりと光る何かがあった。

 もしかしたら木像が昔抱えてた何かだったのかもしれない。

 それをそうっと指を伸ばして気が付く。

 これは、誰の指だ?


「ひいっ!!」


 慌てて引っこめてから、胸を腕を、足を触れると分かる。

 誰だこいつは。

 知らない身体に自身の意識だけが入っている、という事だろうか?

 そのことに気が付けばぞっとした。

 何故こんなことに――?


 まみこはなるべく視界に指を入れないように――身体を端っこまでも入れないようにして、何とかその光る何かを手に取った。

 案の定、それは鏡であった。

 丸い鏡を手に取り、そうっと床に下ろす。

 そしてそこにゆっくりと己自身を映しこんで、やはりそこに映っているのは別人だったことに気が付いて、涙する。


「誰よこれぇ・・・なんでよおおおお」


 まだ人で、それも美しい見た目だったから良かったとは言える。

 けれどだからと言って、それが嬉しいかと言えば嬉しくは無かった。


 まみこには伴侶となるべく将来を誓い合っている仲の彼氏がいた。

 それも、かなり自分にとってはだが、優良物件である彼だ。

 そんな彼と結ばれるためにはあの身体であるべきだからだ。

 普通、体が入れ替わっていれば当人であると何度言おうと無理に決まっているだろう。

 だからどうしようか考えて――泣いた。

 振られちゃう。

 もしかしたらもう二度と会えないかもしれないし。

 どうしたらいいの?

 誰よこれ。


 頭の中が誰かにかきまぜられているかのように、思考が定まらず結論が出なかった。

 あまりの出来事に腹が立っていたため、鏡に拳を叩きつけた――と同時に、鏡はパンと音を立てて割れてしまった。

 当然と言えば当然だが、何でよとまみこは叫ぶ。

 その声もまた別人の声で、腹が立って腹が立って仕方なくなった。

 悔しかったからそうしたが、早計だったと言わざるを得ない。


『コピーマスターを得ました』


「は?え・・・・・何?」

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