アイドルと肉体を入れ替わった私がアイドルですか!?~絶対模倣でアイドル活動やってやろうじゃないですか!~

ゆう/月森ゆう

第1話アイドル活動?何てやってられないなんて言ってらんない

 私は綾小路真美子、だけど今だけはアイドル20――トゥエニーのメインボーカル、ランだった。

 もう30越えてるのに、何やってんだろ――と思わなくはない。

 30越えてアイドルしている方には申し訳ないけど、こちとら一般人なので舞台度胸はなく、ただの自棄である。

 恥かしいのと照れで酷いものだが、ランが恥ずかしそうにしていると言えば、可愛いと言われて終わりなのだ。

 まみこが中身だとは誰も知らないわけだから、そういうことはランになっている以上言えないのだけれど。


 内心でため息をつきながら、身体がランだから、何したって逃げられないのだと諦める。




 にしても――ダンスが踊れなくなったねって最初言われて、爆笑された時の一言絶対忘れないんだからね。


『一拍遅れてる、おばさんかよwww』


 あのわらわらわらっていう言葉、相当イライラしたから!

 絶対に忘れない。

 同じトゥエニーのメンバー全員から馬鹿にされた。

 ダンスの講師には呆れられたが、仕方ないだろう。

 踊ったことがないのにこれだけ踊れるだけいいと思うけれど、トゥエニーと言ったらこの曲なんだそうで。

 踊り慣れているはずの曲で大ポカをやらかしたと言う事らしく、赤っ恥をかいたらしい。

 と言っても自分が馬鹿にされているのは分かるので、流石にイラつくが。


 ダンス講師がもう一度よと、踊ってくれることになった。

 仕方ない、絶対模倣――コピーマスター――を起動する。

 ダンスを見て、模倣するための下準備をする。


「さあ、やってみせて。もう遅れないように。行くわよ」


「はい!」


 返事だけは一丁前何て言われないように、頑張った。

 ワンツーワンツーワンツースリーフォー、声に合せて指先まで神経をとがらせるように全身を動かしていく。

 マネってレベルじゃないそれは、ダンスの講師のそれだ。

 音楽に合わせて軽やかにステップを踏んでいく。

 舞台の上だと思い、渾身の力を込めて踊る、踊る、踊る。

 けれど見るものからすればそれは、妖精の舞うような軽やかな舞に見えていた。

 軽やかで美しい動き。

 全員をこれにより虜にする。


 まみこ――ランの髪は美しく舞い上がり、自由自在に踊り圧倒する。

 全て踊り終えた段階で呼吸を止めていたことに気付いた。

 大きな拍手と歓声が響く。


「なあんだ、踊り忘れてないじゃん。おばさんみたいなへっぴり腰だったからダメになっちったかと思ったよお」


「ほんとほんと。だいじょび?」


「あちしらより真ん中で歌う分、踊りが少ないんだ。ま、頑張って」


 ぱしっと肩を叩かれて言われたそれは、ランに対する言葉で。

 けれどアイドル何て今後やっていく気はないから、腹立たしくて仕方なかった。

 いつか辞めますって言ってやるんだ。

 でも、でも、今の負けっぱなしで止めるのはしょうに合わないから。

 だから絶対に勝者になってから止めるんだ!!

 まみこはそう誓うのだった。





 ランは三日間行方不明だった――とされているが、実際にはまみこがランの場所に居た。

 皆行方不明となっていたランにお冠だった。


 それは分かってる、というよりも分からなくもないのだが、まみこは実際問題ランではない。

 見た目はランだがまみこはまみこでしか無いのだ。

 フェスイベントの一週間前での失踪ということで、ランにはとてもメンバー全員どころか、スタッフ一同気をもんでいた。

 もう少し居ない時間が長ければ、恐らく失踪届が出されていただろうことは分かるだけに、まみこも何も言えないでいた。


 そのまま翌週ライブを決行するとなった時、一番喜んだのはスタッフだっただろう。

 トゥエニーは今、一番売れてるアイドルだったからだ。


 今日のライブステージでは、テキーラなどの強い酒も出ている。

 それはイベント会場が出しているもので、皆酒も入って大いに盛り上がった所で、またランは歌った。

 メインボーカル、ラン。


 その歌声一つでのし上がったとまで言われるそれは、力強い声でもあり、妖精のように儚くもある声と言われている。


「さあ、乗っていこう!!」


 過去のライブ映像を見て、全てを模倣して見せる。

 新しさはないだろうが、今の絶対模倣のレベルは、元の模倣よりも上とされるレベル。

 それだけでライブの完成度は元のランより上だろうと言えた。

 腕を振り、足を上げる。

 一挙手一投足に全ての視線が集まるのを感じた。


「さいっこー!」


「ランさまあああああ!」


「美しいですランさまあ!!」


 声が素晴らしいのは当然と言った様子で、褒められることはなかった。

 こんなにきれいな声なのにな、と多少気落ちする。

 自分のものではないけれど、それでも今は自分のモノだから――大いに歌を披露する。

 歌を聞け、私の歌を、私の歌を聞いて、歌の世界に飛び込んできてほしいと力を籠める。

 顔じゃないんだ、聞いて貰いたいのは歌なんだ――!!

 絶唱する――絶対模倣が力を奮う。

 絶対模倣はその目的のものの最高スペックを今では出すことができるようになっていた。

 だから――私は歌う。

 今の私は、ランだから――!!


「――――――」


 観客に高音域で綴られる曲として凄まじい力を持って襲い掛かったそれは、圧倒的な力を持つ声だった。

 観客は陶酔したように歌に身を委ねることしか出来ない、それしかなすすべがない。


 歌を聞いて、私の歌を――


 ランの、まみこの歌を聞いて――。


 私を見つけて、見つけて、見つけて。

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