第21話

少し歩くと料理が並ぶエリアへと来ていた。


周りは何故かご子息ばかりで令嬢の姿は少ない。


「ここなら大丈夫そうですね。それに料理もありますし何か食べますか?」


アーロン様を見ると笑顔で頷く。顔色も良さそうだ。


「何がよろしいですか?取ってきますよ」


「いいよ、ここは俺に任せてマリルは待ってて」


アーロン様はそう言うと私の分まで料理を取りに行ってくれた。


張り切るアーロン様に任せることにした。


料理はアーロン様なので自分は飲み物でも用意しようかと周りを探す。


あった!


並べられたグラスを見つけて二人分取ろうとすると同じようにグラスを取ろうとする手にぶつかってしまった。


「すみません」


慌てて謝りその人を見つめる。


「大丈夫だよ、えっと……」


その方はアーロン様よりも少し背が高く金色のサラサラとした髪に緑の瞳で優しげに微笑んだ。

見とれてしまうほど綺麗な顔だった。


「マリルと申します。こちらをどうぞ、私は向こうのを取りますので」


見るからに身分が高そうなのでまたなにか言われる前に謝りその場を去ろうとした。


「大丈夫だよ、君が取って」


するとその方は私の手を取りグラスを渡してくれた。


「ありがとうございます」


あまり無下にしない方がいいかとそれを受け取り、アーロン様の分も取るとペコッと頭を下げてその場を去った。


アーロン様はどこかな?


私は先程の場所でアーロン様を探す。

少し飲み物の調達に手間取り遅くなってしまった。


アーロン様がまた巻き込まれていないといいが……


アーロン様を探してよそ見をしていると、談笑していたご子息にぶつかってしまった。


「あっ!」


ぶつかった人は持っていたグラスが揺れて中の飲み物をこぼしてしまった。


「す、すみません!」


私は謝り服を見るが幸いにも服にはかからずにすんだことにホッとする。


「あーあ、どうしてくれるんだ!」


しかしその人はこぼれた事に怒っていた。


「申し訳ありません。代わりの物を取ってきます」


ぶつかった自分が悪いので誠心誠意謝り他の飲み物を取りに行こうとした。


「待て!」


するとその人は私の肩を掴んで引き止める。


「すみません、すぐに取ってきますので」


もう一度謝るとその人は私の顔をじっと見つめて上から下まで観察される。


「もういい、それよりもお前の名前はなんだ?」


「あっ、すみません。ジェイコブ伯爵家のマリルと申します」


「伯爵家か……まぁまぁだな」


「え?」


「俺はパンクス侯爵家の次男マルコイだ」


「マルコイ様ですね、本当に申し訳ありませんでした。すぐに代わりの物を持ってきます、何か好みはありますか?」


「だからもう飲み物はいい、それよりもマリルと言ったな、俺に付き合え」


「え……とすみません。私連れがいますので失礼致します」


アーロン様がいるのでできないと謝るとマルコイ様の近くにいた友人らしき人がクスクスと笑う。


「マルコイ、こんな年下の女の子にふられてんの」


友人に笑われてマルコイ様は顔を真っ赤にしてしまった。


「ふったわけでは……でもすみません」


マルコイ様を笑いものにしようと思った訳では無い。

慌てて謝ると肩を掴んでいたマルコイ様の力が強くなった。


「いたっ……」


指と爪が肩にくい込み痛みが走る。


「お前、侯爵家の俺に恥をかかせたな」


「そんなつもりは」


なんで断っただけなのにこんな事になるの?


もう面倒になってきた……このまま無視して走り去ったら……って名前を言ってしまった手前逃げる訳にもいかない。


こうなったらひたすら謝るかと覚悟を決める。


「あの!」


深く頭を下げれば大丈夫かとマルコイ様に向き合おうとすると……


「僕の連れに何か用かな?」


「え?」


聞きなれない声に顔を向けると先程グラスを譲ってくれた人が声をかけてきた。


「誰だよ!」


マルコイ様が声をかけてきた方に矛先を変えて怒鳴った。


「ローゼンと言います」


ローゼン様は爵位も言わずに名前だけ答えた。


ローゼン?どっかで聞いたな……


あったことは無いはずだともう一度顔を見上げる。

するとマルコイ様と友人達の顔が曇った。


「ローゼン……王子」


王子!?


ハッとして顔をもう一度見る、そういえば勉強で見せて貰った国王の肖像画はサラサラの金髪で緑色の瞳をしていた。

そして王子が二人、第一王子のアゼロス王子と第二王子のローゼン王子がいた。


ここにいる方はそのローゼン王子と言うことなの?


周りの反応を見るに間違いないようだ。


「問題ないならこの人は連れていくよ」


ローゼン王子は私の手を掴むとマルコイ様達に軽く微笑む。


マルコイ様達は何も言えずに道を開けた。

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