第20話

「先程から目障りだわ……あなたお名前は?」


明らかに見下した顔で私を見つめる。


「私ジェイコブ伯爵家のマリルと申します」


「ジェイコブ伯爵?あそこはご子息しかいなかったはずです、貴族の名を語るなど嘘なら大罪ですよ」


そう言うと周りの令嬢達もざわめきだした。

わざとみんなに聞こえるように大きな声で言ったようだ。


「本当です。最近養子として迎え入れてもらったのです」


「ふーん……まぁそれでも侯爵家の私を遮るなどどういう事ですか?」


見下す態度に自分が格上であると知らしめたいのだろうとひしひしと感じる。


でもここで下手に出る訳にはいかなかった。


「私はアーロン様のパートナーとして今日のお茶会に参加しました。それなのに皆様アーロン様を取り囲みパートナーを蔑ろにしれております……私お茶会は初めてですがそれがお茶会のルールなのだと理解しました」


ニコッと笑ってそう答えた。


「パ、パートナー……」


「はい、アーロン様にエスコート頂きここに来ました。ねっアーロン様?」


私がアーロン様に同意を求めた。


「あぁ、一人にしてしまって悪かったな」


アーロン様はノリノリで私の頬を愛おしそうに撫でる。


そこまでしなくていいと思ったが口には出さない。


「それにしても皆様すごいですね……私が習ったお茶会では相手を思いやり、人を見下さず貴族として誇りを持った行動をするものだと思っておりました。それが本当は自分の都合で相手の事など考えずに行動する事が今の最新のお茶会のルールなんですね、勉強になります」


私がそういうと今までアーロン様とうるさかった令嬢達がシーンと口を閉ざした。


「私皆様より年は下だと思います。ですからこれからお茶会の事を何も知らない人が来たら教えて差し上げますね!えっと……確かティファニー様でしたよね?」


ニコッと無邪気に笑って名前を言った。


「マリル……そのくらいでいいよ」


するとアーロン様が後ろで震えながら私の手をそっと引いた。


怯えているアーロン様に私は早くこの場を去るべきと判断した。


「それでは皆様に習いアーロン様は私が連れていきますね」


そう言ってアーロン様の手を掴むと唖然とする令嬢達の間を堂々と通り抜けて最初に向かおうとした会場の端を目指した。


木の影に隠れるとサッと周りを確認する。


近くに人が居ないのをみてホッと胸を撫で下ろすとアーロン様の様子を確認した。


「すみません!しっかりとお世話をする約束でしたのに、あまりの勢いに離されてしまい。ご気分は大丈夫ですか?」


アーロン様は下を向いたまま口を押さえていた。


気持ち悪いのかと思い水を持ってこようと走り出そうとする。


「お待ちください!」


離れようとしたところアーロン様が私の手を掴んだ。


「大丈夫だからそばにいて」


「でもご気分が……」


「これは……ちょっと笑っただけだから大丈夫だよ」


そう言って顔をあげるとアーロン様はクスクスと笑っており、顔色もよく見えた。


「笑ってる?だって震えて……」


「それはマリルがあんな事言うからさ、あいつらの顔みた?鳩が豆鉄砲くらったような顔してたよ」


アーロン様はまた思い出したのか肩を震わせる。


「心配したのに……まぁいっか」


元気そうな様子に良かったとホッと胸を撫で下ろした。


「それにしても凄かったですね。私油断してました、まさかあそこまで酷いとは」


幼い頃から自分を特別扱いされてきたらあんな性格になるのも仕方ないのかもしれない。


でも子供だからと全て許してしまうのは優しさでもなんでもないと思う。


「だろ?だから俺は来たくなかったんだ」


アーロン様は思い出したのか嫌そうに眉をひそめた。


「しかし普通の常識ある方もいるはずですよ」


私としてはアーロン様に私以外にも友人などできてほしいと考えていた。


「俺はマリルがいればいいんだけどな」


アーロン様は寂しそうな子犬のような顔で私の手を握りしめた。


「嬉しいですが私が常にそばにいられるわけではありません。アーロン様も気の置ける友人ができるといいのですが……」


チラッと会場を見渡すと、先程アーロン様を囲っていた令嬢達が会場をキョロキョロと誰かを探しながら歩いていた。


「んー、あれはアーロン様を探してますよね?」


「たぶん……はぁ……」


アーロン様も私の後ろからその様子を覗き込みため息をついた。


「ここは令嬢が多いみたいですね、少し移動しましょう」


私はアーロン様の手を引いて会場の端を目立たないように移動した。

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