第13話新しい家族

「い、今なんて?」


私は朝からマリエルさんに呼び出されていた。


大事な話があるからと行ってみたらニコニコ顔のマリエルさんに嫌な予感がした。


あの顔をしている時はあまりいいことがない。


勉強をする時やマナーの勉強をする時など同じような顔をしていた。


そして今回は……


「私がマリエルさんの家族になるんですか?」


「私……と言うと語弊があるわ、私の息子のジェイコブ伯爵家の養子になって」


お願いとマリエルさんは微笑む。


マリエルさんの頼みなら断りたくないが今回はそうもいかない。


「待ってください!なんで急に養子なんて……」


「だってマリルちゃん……家族がいないでしょ、本当は私の娘にしたいけど私は未亡人だし爵位も低い、なら息子の伯爵家がちょうどいいもの」


マリエルさんの説明は全然説明になってなかった。


「マリエルさんの娘……なんてすごく嬉しいですが、別に本当に養子にしなくても、私はマリエルさんを家族のように思っています」


「マリルちゃん!」


マリエルさんは涙ぐみながら私に抱きついた。


「ありがとう、私も同じ気持ちよ。でもね気持ちだけではどうにもならないこともあるの、マリルちゃんはアーロン様のそばにいるんでしょ?なら武器を持たないとダメ!私がいつも口を酸っぱく言ってるでしょ?」


「はい、女は所作も武器になる……だから頑張って分不相応ですが覚えました。でも爵位は……私庶民ですよ!」


「だからこそよ、アーロン様になにか会った時にその身分が弱みになり武器にもなる。嫌な世界だけど爵位のせいで謂れのない罪に問われた人をいく人も見てきたわ……私はマリルちゃんにそんな思いをさせたくないの」


「なら……私がアーロン様の元を去れば……」


「マリルちゃんそんなこと出来る?」


全て知っているもばかりの顔にサッと背けた。


「すみません……いけない事とわかっていますが……」


この思いは誰にも知られてはいけないと頑なに隠していたつもりだったがマリエルさんにはバレていたようだ。


「女ですものわかるわ」


マリエルさんは私を責めるどころか同意してくれた。


「だから養子になればその思いも蓋をしなくてもいいのよ。堂々とアーロン様の隣に立てるわ」


「でも……アーロン様にはもっとふさわしい女性が……」


「それはアーロン様が選び決める事よ。もし隣に行ってアーロン様が選ばなかったらその時はその時考えましょ!まぁ絶対にないでしょうけど……」


マリエルさんが最後にボソッと呟いた。


「何か?」


「いいえ。あっそうだ!アーロン様が他の方を選んだらその時は私とグランドさんとマリルちゃんで隣国に引越しましょ!そこで3人で仲良く暮らすの、どう?」


「ふふ、それは素敵ですね」


そんな未来が待ってるなら当たって砕けるのも悪くないかも……それに確かにアーロン様を守るなら爵位は必要不可欠だ。


「わかりました、この話謹んでお受け致します」


「やった!それなら善は急げよ!もう息子が家で待ってるの行きましょ!」


「え~!?私が断るって思わなかったんですか?」


「全然!マリルちゃんなら了承してくれると思ってたわ!」


マリエルさんに無邪気にそう言われると毒牙を抜かれる。


「ふふ、ミコラス様に申し訳ないですね」


「あら、息子だってマリルちゃんが娘に来るのを楽しみにしてるのよ」


「ならいいですが……」


マリエルさんの息子のミコラス様には何度が会ったことがあった。


マリエルさんに似て優しくて素敵な紳士だった。その奥様も素敵な方で確か実子は男ばかりな事もあり男勝りな性格だった。


「私が娘になって大丈夫かな……」


アーロン様のお茶会に行く決意もこんな気持ちだったのかもしれない。


今度会う時はもっと親身になってあげよう。


私は緊張した面持ちでマリエルさんの家へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る