門の旅人

昼間真昼

第1話ゆるやかにはじまる

今は夏、特に最近の夏は暑い。まるでだんだん別の気候になっていくかのよう。

俺の住む望月家の表札も新しくピカピカだったものが今では水垢、コケにまみれている。これでは望月が雲に隠れて見えなくなっているようなものではないか。

まあ、この田舎にはそんな家珍しくもなく、目に入る家大体がそうだ。


平日の今日も学校に行く、また、いつもと同じように。この青春の日々も田舎となれば、ほとんど変わらない顔ぶれ、帰りに寄り道で寄る自動販売機、中学からほとんど変わらない人間関係。華やかな青春の日々など空想上の話、もし、不思議な力に目覚め、世界の秘密に向き合うことになったらと、何度思っただろう。使い古した設定は今日もまた少し形を変えて脳裏を漂っている。


鳴った音は最後の授業の終わりを告げて、放課後が始まる。

高校生にもなれば、趣味や人には言えない秘密ができるものである。

俺には秘密基地がある。

なんともない、いつもの放課後、まっすぐ俺は家に帰り、そして山へ向かうのである。

今、第三次秘密基地改造計画は、最後の仕上げに差し掛かっている。

水力発電所を作りこの山の中に文明の光を灯す、この計画は、あとは電球をはめるだけで完成する予定だ。


自分で整備した道をたどり川のそばの小屋の前に着いた。道中聞いたことのない動物の鳴き声のような音が聞こえた。不気味に思ったが、一度しか聞こえなかったから気にしないことにした。


小屋の戸を開けると、犬がいた。とりあえず観察してみると、もふもふでつぶらな瞳をしていることが分かった。あいてに敵意がなさそうなので撫でてみた。もとから人に慣れていたのか、嫌がることはなく気の済むまでもふらせてくれた。

とりあえず犬は置いといて、ついに電球をはめるときである。つかなかった、配線を確認してもおかしなところは見つからず、結局原因は不明なままだった。

困った、そう、このままだと約一年が無駄になってしまう。嘆いていると、ふいに犬の姿が揺らいだ気がした、しかし何度見ても犬は犬だった。すると電気がついた。理由はわからないが成功したのでよしとする。


今日は帰って犬の許可を取ってくることにする。

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