死出の山

第18話

 俺は目を開けた。頬にザラザラした物が当たっている。地面にうつ伏せになって寝ていたと気付くのに少し時間が掛かった。ゆっくり体を起こす。顔や体に付いた砂を払い落としながら辺りを見回した。周りにあるのは枯れて白っぽくなった木々とゴツゴツした岩だけだ。俺が寝ていた所はかなりマシだが、地面にも大小の岩が起伏を作っている。

「なんだよココ……」

 呆然として呟いた時だった。

「やっと」

「お目覚め」

「ですか?」

 足元から幼い声がした。慌てて飛び退くと、いつから居たのか五歳くらいの子供が三人、俺の事をジッと見据えていた。

「は? え? 君ら誰? てかココが何処か分かる?」

「ここは」

「死出の山の」

「入口です」

 横一列に並んだ子供達は、何故か一つの文を三人で区切って話す変な喋り方をする。っていうか……

「待って? 死出の山って死んだ時に行く山だろ? ここってそんな地名なの?」

「違います」

「ここは正真正銘」

「死出の山です」

 待て待て待て。そんなの、この子らが言ってる事が本当なら俺は……

「え? 俺死んじゃったの?」

 三人は同時にこっくりと頷いた。それを見た瞬間、全身から力が抜けてしまった。ずるずるとその場に座り込んだ。

「そんな……どうして……」

 最後の記憶は道案内をしようと車に近付いた時だ。その時に頭に激痛が走ったんだ。もしかして脳の病気だったのか? 脳梗塞とか脳溢血とか、そう言う何かにあのタイミングでなったのかもしれない。俺は大きく全身の空気が抜けるまで深く溜息を吐いた。病気だったんだと思えば、ちょっとだけ溜飲が下がった。

「じゃ、お前ら人間じゃないんだな。名前は?」

「奪魂鬼」

「奪精鬼」

「縛魄鬼」

「あー、その名前も聞いた事あるわ。人が死んだら迎えに来る鬼だろ?」

 三人はまたこっくりと頷いた。そう言えばこいつらさっきから左の奴から順に喋ってるな。思ってる側から、また左の奴が喋りだした。

「アナタ冷静ですね」

「自分が死んだと言うのに」

「全然取り乱さない」

「え? うーん、なんかまだ実感が無いんだよな。突然だったし」

 俺が首を傾げると、目の前の小鬼達がクスリと笑った。そうやって笑うと表情が幼くなって年相応に見える。全員よく見たらスーツ、と言うか喪服姿だ。きっちりネクタイも締めている。

「私達」

「そろそろ」

「次の仕事が」

 いつの間にか真顔に戻った小鬼達が言う。

「翔鳥雄大朗さん」

「アナタはこの道を」

「真っ直ぐ進んでください」

 俺の名前を知ってる。あの世の鬼なら当然だろうけど、これでまた一つガキのお遊びと言う可能性が減った事になる。

「ん、じゃあな」

 俺が片手を上げて挨拶すると、三人は深々とお辞儀をした。その瞬間、真っ赤な炎が三人を包み一瞬で跡形もなく消えていった。

「移動方法怖っ」

 誰にともなく呟くと、グッと力を入れて立ち上がった。ここにこうしていても仕方ない。とにかく先に進もう。

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