第3話 実行とカミングアウト
突然のリストラから1週間。俺は自宅で通帳を見ながらこれからの事について悩んでいた。貯金を切り崩しながら生活したら少なくとも1.2年は持つだろうが、このまま家に居続けると立ち直れない気がした俺は、新しい就職先を探すことにした。
前職と似たような職種で中途社員を募集している会社に何社か応募した。仕事をするうえで必要な資格はすべて取得しており、高校卒業後から働いているためキャリアもそこそこ長い。だが、何故か悉く書類選考で落とされた。
3か月後。未だに他の会社に再就職ができていなかった。貯金はまだ余裕があるが、社会に自分が必要とされていないようで精神的に参っていた。この日の夜、いつものように陽花ちゃんが夜ご飯を作りに来てくれた。
「お兄さんご飯できましたよ。って忙しそうですね?何をしてるのですか?」
「うん?あぁ、前職と似たような会社じゃあ再就職できそうにないから別の職種にしてみようと思ってね。そのために資格の勉強をしてて。」
「へぇーそうなんですね。・・・ギリギリ間に合ったかな。」
「?何か言った?ごめん聞こえなかった。」
「いいえ何も言ってないですよ。さぁご飯が冷める前に食べましょう。今日はカレーですよ。」
「ありがとう。今行くよ。」
俺は、陽花ちゃんと一緒にリビングへと向かった。夕食を食べ終えて食器を片付けようとした時、全力で運動をした時のような疲労と眠気に襲われた。
「お兄さん?眠くなったのですか?風邪ひくので寝るならベットで寝てください。片づけはやっておくので。」
「ごめん。ありがとう。」
「大丈夫ですよ。おやすみなさい♡」
俺は、よろけながらもなんとか自室へと戻ってベットに横たわり深い眠りについた。
目を覚ますと、寝る前の疲労感は感じなかったが長時間寝た時の気だるげさを感じていた。それと同時に違和感も覚えた。部屋の窓は火の光が入らないように完全に塞がれており、照明が1つ点いているだけだった。さらには、俺の手足は手錠でベットに拘束されており、服もほとんで着ていなかった。
状況を飲み込めずに辺りを見回していると、俺のカッターシャツを1枚だけ着た陽花ちゃんが部屋に入ってきた。
「あっお兄さん起きたんですね。おはようございます。」
「陽花ちゃん。これはどういう状況?冗談にしてはやりすぎな気が。ていうか、俺はどのくらい寝てた?体がだいぶだるいんだけど。」
「ちょっと盛りすぎたかな?・・・っとすみません。そうですね。だいたい2週間近く寝てましたよ。よく寝てましたね。」
「2週間?でも、普通そんなに寝続けられるはずは。」
「普通は無理ですね。なので、お兄さんの食事に私オリジナルの睡眠薬を仕込ませていただきました。まぁ、睡眠薬というより手術で用いられる全身麻酔に近いですけどね。」
陽花ちゃんは、シャツの胸ポケットから液状の薬が入った小瓶を取り出した。
「この薬は一度に摂取しすぎると流石に危険なので、お兄さんの体に慣らすために快眠できる程度の量を数回摂取していただきました。そして、いつも量に慣れたことを確認した後にいつもより多い量の薬をお兄さんに投与しました。この薬を作るの結構苦労したんですよ。あっ後、お兄さんが会社からリストラされたのも再就職できなかったのも私です。」
「なんで・・なんでそんなことを。俺になにか恨みが。」
「恨み?まさか、そんなのあるわけないじゃないですか。なんでこんな事したのかというとですね。」
陽花ちゃんはベットに座って俺の頬を撫でた後、耳元で囁いた。
「あなたのことが心の底から欲しかったからですよ。お兄さん♡」
「は?」
陽花ちゃんからの突然のカミングアウトの連続で全然状況の整理がつかなった。
「あっ、もうお兄さんじゃなかったですね。」
すると、陽花ちゃんはおもむろに自分のお腹をさすりながら一言
「パーパ♡」
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