志綾の中に眠るのは?
「あ、志綾ちゃん。おはよう」
一番最初に気づかれたのは
「お、おはようございます。」
「・・・」
荼泉は純麗を見る。視線に気付き頬を赤くして「な、なにかな?」と言った。
「お前・・・誰かに言ったのか?」
そう質問すると純麗が視線を逸らした。珍しく舌打ちをした荼泉は純麗に詰め寄る。
「誰かに言うなと言っただろう?」
「つい、口が滑っちゃって、」
「そんな言葉で信じると思うのか?お前が逆の立場だったらどうした?お前はきっとひき・・・
「荼泉様!やめてください。やめて、ください。もう、良いです。私は荼泉様が居れば良いです。」
袖を掴んで訴える。志綾を見ると今にも泣きたい顔、そして逃げ出したいが我慢している顔をしていた。
「志綾・・・」
「何やっているんだ?」
誰かの声がした。初めて聞く声。二人はそっちの方へ振り向く
「えーと」
志綾が名前を思い出そうと考える。
「あ、ごめん、みんなが自己紹介した時僕休んでたから繋さんは知らないよね。僕、
「年髄君?」
「うん、それで二人はなんで喧嘩してるの?」
「いや、終わったことだ。志綾。席に座る?それとも帰る?」
「そこは保健室行く?じゃないの?もう帰る前提なの?」
「大丈夫です。座りましょう。」
荼泉は年髄を無視して二人で席に着く。「え、え、無視?心にヒビが入ったよ」と最後に聞こえた。
担任が数分後に来て主席確認をして、志綾を呼んだ。呼ばれていない荼泉も隣にいる。
「あ、あの、要君?私・・・呼んだかな?」
「いや」
「そ、そうだよね。なんでいるのかな?」
「俺は志綾の婚約者だから」
「あはは、要君がそんなことを言うと嘘に聞こえないなぁ」
「先生は知ってるはずですけど?」
「うん、事情は全部知ってるよ。要君と繋さんの関係も家族のことも、そして、繋さんのこともね。要君。今から話すことは繋さんのプライベートな話だから廊下にいてくれない?」
「先生、荼泉様にいてもらった方が安心できます。」
「本当に?・・・分かった。繋さん、貴方は本当はどっちになりたいの?・・・ヒャ」
質問の後に担任は悲鳴を上げた。
「その質問はダメだ。」
「えぇ、私でも許せないわ。」
「筒夏さん!」
志綾が声を上げた。
「な、な、」
言葉にならない声を担任は上げ続ける。
「二人とも、引っ込んでろう。お前達が出る場面ではない。」
「荼泉様・・」
「・・・荼泉様の命令でもそれだけは聞けません。この人がした質問は禁じられています。」
要家の使いが丁寧に答える。
「筒夏さん!やめて、やめてよ。」
志綾が声を上げる。
「お願い、お願い、解放してあげて、」
そう願うように筒夏の服を引っ張る。
「志綾様・・・ごめんなさい。それは出来ません。」
「え、」
呆然と筒夏を見上げる志綾。少し間見上げてから視線を下に下ろしてため息をついた。
空気が変わる。緊張感がみんなを襲う。誰がこの空気を作っているのか分からない。いや、みんな、分かりたくない。だって、だって、この空気を作っているのは志綾なんだから
「・・・はぁ、ねぇ、僕はやめろって言ったはずだよ?たかが使いの分際で僕に逆らう気?筒夏。君には幻滅した。きっと二人は僕が何も出来ないと思っているだろうね。僕は
そう志綾・・・きっとこれは志綾じゃない、じゃ、誰?
そう誰かが言うと要家の使いがナイフを落とした。「あ、」と短く声を漏らす。
「志綾様?」
ああ、これは多分、志綾の中に眠る志飛なのだろう。
どうして、こうなった?
どうして、
いつからおかしかった?
俺は気付けなかった?
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