兄弟

 泣いてしまった志綾しあを引っ張って学校に着いた。

 「しと・・・志綾。泣き止め。そんな姿初日に見せたく無いだろう?」

 「う、うん。ごめんなさい。」

 目を擦って笑顔を見せる。

 「目が赤い」

 志綾の目に触れまだ残っている涙を取る。

 「えへへ、荼泉とい様は優しいです。」

 「そんなことはない。それに・・・」

 何を言ったのかは聞き取れなかった。

 「教室、行こうか。」

 「うん」と呟き二人並んで校舎の中に入って行った。

 



 志綾と荼泉が学校に向かった後、繋家は要家に呼び出しを受けていた。

 「当主様。繋家の方が来ました。」

 「通せ、」

 「はい。お待たせしました。どうぞお入りください。」

 「失礼します。」

 「・・・座れ。」

 「それで、何がありましたでしょうか?」

 当主、黒凪くなの前に座り、茅鶴ちづるが質問する。黒凪は茅鶴に視線をやったがすぐにかおるを見た。薫は黒凪の視線に気が付いたのか黒凪と視線を合わせようとしたがチラッと茅鶴を見て「茅鶴。俺は・・・」と何かを言おうとして茅鶴が遮った。「・・・私は時咲とさ様の手伝いをして来ます。何かありましたらお呼びください」と言って出て行った。出て行く前に薫は小さい声で「ありがとう」と言っていた。

 「こうして、私達だけで話すのは久しぶりですね。黒凪・・・いや、当主様。」

 「・・・やめてくれ。に『当主』と呼ばれたくはない。」

 「・・・それでも黒凪は私達・・・俺達の当主だ。俺は・・・黒凪に悪いことをしたと思ってる。当主という座を押し付けてしまった。・・・俺はお前が好きな物もなりたいと思っている者も知っていた、なのに・・・俺は俺のことを優先させた。俺には無かったはずなのに俺は・・・」

 「兄さん!そんなこと・・・言わないでください。兄さんは悪くないとあれほど言ったはずです。あの時は伝統破りをしてしまった僕が悪いんです。」

 兄の薫を前にした黒凪はいつものような威厳のある当主ではなく、兄を心から思っている心優しい本当の『弟』だった。

 「・・・今、今考えてみるともう少し会話をしていればあんなすれ違いも起こらなかったのかもしれないな。・・ふぅ~・・黒凪。俺達は大人だ。いつまでも親に縛られていたら俺達は何も変わらない。・・・もう伝統なんて良いんじゃないか?もう、子供達に好きな人生を歩んでもらう。・・・それじゃダメなのか?」

 「兄さん・・何を言っているんだ?伝統を辞める?意味が分からない。何年も続いて来たこの伝統を?」

 「そうだ。もう伝統何って言ってられないじゃないか。繋家は一人しか産んでいない。でも要家は三人産んだ。じゃ、後二人はどうする?茅鶴はもう産めない体。お前は三男と婚約させた。じゃ、次男、長男は?」

 「そ、それは・・・」

 「まさかと思うが志綾に産ませて子供を作らせる気か?」 

 「・・・ッ」

 「図星・・・そこまでしても伝統を破りたくないのか。いや、流石な当主様。・・・・お前は・・・最低だな。」

 「・・・まだ何か方法が・・・」

 「ないよ。お前を気が付いているだろ。ないんだよ。何も」

 「あ、そうだ!志綾に三人と婚約を結んでもら・・・」

 「え・・・兄さん?」

 目の前にいるを殴っていた。薫には目の前の人物が黒凪ではないように思えた。

 「お前に当主は向いていなかった。・・・でもそれは俺には言えない。だって俺はお前に全部押し付けてしまったから・・・でも、お前が変われるのを遠くで願っているよ。」

 出て行く間際にチラッと見て言った。

 薫は部屋を出て行った。


 「・・・クッソ。」

 「あ、薫様。今、お茶をお運びしようと・・・」

 「あ、すみません」

 「いいえ、茅鶴様お呼びしましょうか?」

 「はい、今日この辺でお暇します。あの黒凪・・・当主様の手当をしてあげてください。」

 「分かりました。薫様も目、冷やしてくださいね。赤くなってしまいます。」

 「ありがとうございます。」

 時咲は来た廊下を戻って行った。数秒して茅鶴の「失礼しました」と言う声が聞こえて来た。

 「薫さん。大丈夫ですか?」

 「うん、大丈夫。帰ろうか。」

 「はい。」

 二人は久しぶりに手を繋いで帰って行った。




 薫は思う。

 いつか、きっと黒凪は変わってくれるはず。きっと。


 黒凪は思う。

 変えて良いなら俺はとっくの昔に変えて#稚隼__ちはや__#先輩と暮らしていた。でもそれが叶わないのなら俺は変われない。

 

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