隙間から

 繋家は挨拶を終え、家に戻って来た。

 「志綾しあお腹空きました?」

 「お母様。今はまだ大丈夫です。」

 そんな会話をかおるは聞き流し志綾を抱き上げた。

 「志綾!今日はよく頑張ったな。偉いぞ!」

 「えへへ。少し緊張して吃ってしまいましたががんばりました。」

 幼いながらも嬉しそうに言う。

 茅鶴ちづるも近くにやって来て頭を撫でた。

 「本当に、今日は頑張りましたね。」

 「お母様とお父様に褒めてもらえて志綾は嬉しいです。」


 街の人にこの街で幸せそうな家は何処と質問したら必ず繋家と答えるだろう。身分も産まれも家柄も関係ない。親子とても仲が良さそうと必ず。


 もう夜中の12時過ぎ志綾は喉が渇き起き上がった。志綾には重すぎる扉を思いっきり開けてテトテト歩いていく。居間から灯りが漏れていて不思議に思い覗き込んだ。

 居間では薫と茅鶴が向かい合い何かを話し合っていた。耳を澄まして聞いてみると

 「・・・もし志飛しとのことが要家にバレたら・・・」

 「だから産まれた時要家に報告する方が良かったと言った。」

 「もしそれで志飛が殺されてしまったら・・・私は一人しか産むことが出来ない体だったのですよ。初めての子供だは守りたいじゃないですか・・・それは私だけが思っていたことなのですか?」

 「そ、そんなことは・・・ただ志飛もお前も守れる選択肢をだな」

 「私は・・・」

 最後まで志綾は聞かなかった。喉の渇きも忘れて部屋に逃げ込んだ。

 志綾は察し能力が人一倍長けていた。だからこの時もさっしたのだろう。

 自分が違う名前でこの家に不要だったことを。

 「私はなに者なのですか?お母様、お父様・・・私は違うのですか?私はわたしじゃないのでしょうか?分からないです。教えて下さい。教えてよ・・・

 布団にくるまって涙を流した。昔にあった仲良かったお友達を無意識に思い出しながら・・・




 繋家が帰り、居間にかなめ家の家族が集まっていた。

 要家当主 要 黒凪くな

 要家奥様 要 時咲とさ

 要家長男 要 咲泉さい

 要家次男 要 真泉まい

 要家三男 要 荼泉とい

 

 「お父様。ご用件は何ですか?」

 長男咲泉が黒凪に質問する。

 「・・・咲泉。どうだ?」

 淡白な質問に慣れてしまったのか咲泉は臆することなく黒凪を見て声を発した。

 「お父様。とても充実して過ごさせていただいています。友も皆、私に寛大でお優しい限りです。ですが一つだけお父様に申し上げないといけないことがございます。」

 「なに・・・言ってみろ。」

 「はい、敷地内で事故が起こってしまい、先生の方からお父様に来て頂きたいとおっしゃっていました。」

 「・・・それはお前じゃ解決できないことなのか?」

 「す、すみません。私の方からも同じようなことを言ったのですが、先生がお父様の顔が見たいとのことで・・・」

「・・・わかった。行こう。時咲、準備をしといてくれ」

 「分かりました。」

 立ち上がり居間を出て行く。

 咲泉は黒凪が設立した大学に通っている大学生だった。黒凪が設立したと言っても校長は黒凪の昔からの友人であり、黒凪の命の恩人だったため、黒凪はあまり逆らうことができないでいた。

 「そうか、で」

 「以上です。」

 お辞儀して一歩後ろに下がる。次に次男の真泉がお辞儀をして座った。

 「お父様。」

 「・・・・・学校はどうだ?」

 「・・・大丈夫です。」

 「そうか。」

 短い会話で終わってしまい数分固まっていると「何か、話すことでもあるのか?」と黒凪が冷たい目をして言う。我に帰った真泉はすぐに立ち上がりお辞儀をしてから一歩下がった。

 「・・・」

 何も動かず、話さずじーっとしている荼泉に黒凪は視線をやる。視線に気がついたのかペコっとお辞儀をしただけで何もしなかった。 

 「・・・」

 「荼泉、前に」

 コソッと咲泉が荼泉に言う無機質な顔をしながら前に出て座った。

 「・・・」


 要家は沈黙で包まれた。ずっとこのままが続くと思っていだが時咲が居間の扉を開けて 

 「当主様。準備が出来ま、した?」

と場の空気に疑問を抱きながら言う。

 「あぁ」

と簡単な返事で返してからもう一度荼泉の方を見る。


 黒凪は改めて人間ではないと感じてしまった。

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