とーくん

 「しーちゃん、しーちゃんは男の子なんでしょう?」

 「わ、わかんないけど私は女の子だよ。おかあさまとおとうさまは『女の子なんだから』って言ってたよ。」

 「でもしーちゃん男のあれついてるじゃん。」

 「うん・・・とーくん。私って何者なんだろう・・・とーくん、お願いがあるんだけどこのことは二人だけの秘密にして欲しいの。きっとおかあさまもおとうさまも黙っていて欲しいと思うの。ダメ?」

 「うんん、しーちゃんと僕だけの秘密だね。」




 「・・・夢?・・・とーくんって誰だろう?」

 目を擦りながら体を起こす。するとノックの音がした。

 「志綾しあ起きてますか?」

 「起きてます。お母様。」

 そう言うとガチャと言う音がして扉が開く。

 「おはようございます。」

 「おはようございます・・・」

 「?どうかしましたか?」

 「い、いえ、なんでもありません。」

 「そうですか?着替えて朝ご飯にしましょう。」

 「はい」

 立ち上がってチラッと志綾を見てから部屋を出て行った。志綾は息を吐いて何を着ようかクローゼットを漁った。


 いつものシンプルなワンピースに着替えて夜中と同じ重い扉を開けて廊下に出た。テトテトと歩いて行き居間の扉を開けた。

 「あ、おはようございます。お父様。」

 かおるが新聞を広げながらお茶を飲んでいた。

 「ああ、おはよう。」

 居間の机の前に座ろうとした時「手伝ってくれませんか」とキッチンの方から声が聞こえた。慌てて立ち上がってからキッチンの方に向かった。

 「運んでくれますか?」

 「はい」

 お皿を二つ両手に持って溢さないように歩く、茅鶴ちづるが扉を開けてくれてゆっくりだが居間の机に皿を置いた。

 「お、ありがとう志綾。」

 薫に礼をされて照れながら「えへへ、もっと手伝う!」と言って走ってキッチンに向かう。茅鶴と薫はお互いに目を合わせて笑った。

 「何運べばいいのですか?」

とキッチンの方から聞こえて「では、それを」とでかい皿を渡してもらい「分かった」と言って持って行った。

 「志綾はいいお嫁さんになるなぁ」

 多分無意識に薫はそう呟いた。茅鶴が少しだけどしょんぼりとした声で「そうね」と呟いたことで薫はハァと何を言ってしまったのかに気が付き「すまない」と小さく言った。

 「・・・」

 二人の様子を横目で見ていた志綾は「お母様、お父様」と二人を呼んだ。二人は志綾の方に視線をやると

 「お母様が作る肉じゃが美味しいですね。お父様。今日は久しぶりにお父様のお仕事お手伝いしたいです。」

 「・・・そ、う良かったわ。志綾にそう言ってもらえて作った甲斐があるものです。」

 びっくりした茅鶴だったが胸に手を当てて優しく微笑んでニコとした。

 「・・・連れて行きたいが今日はいつものところじゃないからまた今度な。でも・・・志綾。ありがとう。」

 場の空気を変えようと志綾が言った言葉は二人の心を温かくした。

 ずっとこの幸せが良いものでありますようにと願う。



 あの時から、家族全員が居間に集まった時以来ずっと黒凪くな荼泉といは一言も話していない。


 

 

 「しーちゃん・・・志飛しと。なんで忘れちゃってるの?約束・・・僕守ってるよ。『しーちゃんと僕だけの秘密だからね』」

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