第26話
玄関をあけると、會田がいた。シワだらけのスーツを来て、顔を真っ赤にして、目を腫らしている。
「會田、なんで俺の家を知ってる?」
「同窓会のツテで知ったってところかな」
會田はそう言うと、手提げ袋から、ピンク色の箱を取り出した。
「莉久、シーシャ吸うんだったよな。たしかストロベリーのフレーバーが好きだって、グラビアの記事に乗っていた。これ、置いていくわ」
會田は力が抜けたように座り込んだ。
「社会部のヤツに聞いたよ。莉久、ひでえ死に方をしたんだってな」
「ああ、カーブでトレーラーに追突されて、ミンチにされた」
莉久が死んだことが、いまだに自分の中で消化できず、淡々と言ってしまう。
「まあ、社会部の連中、あれが本当に事故だったか疑わしいって騒いでいたぞ。偶然の事故にしては、できすぎている。まず、トレーラーの運転手は職を失って失業中。トレーラーはオオツカ・ミライが所有しているもので、運転手は多額の借金をオオツカ・ミライ関連の金融業者から借りている。運転手にかけられた保険、名義人は株式会社SG。お前らの会社、スガワラ王国の精算会社だ。そして、莉久はスガワラ王国の副社長。なあ、奏太。あれは本当に事故だったのか?」
「……ああ」
弱々しく呟く。會田は哀愁と憎悪そして、失望が混じりあった、複雑な表情をした。
「疑わしいことがたくさんありすぎて、とても困る。新聞社にいる人間としては、お前を地の果てまでも追ってでも、真実を知らないといけない。けど、同級生が容疑者になるのは、嫌だ。それに、莉久のコスプレ、すごく好きだったんだよね。あいつのキレイなイメージを、永遠に残しておきたい」
「そうだったら、俺のことをこれ以上追求するな。俺も、莉久をキレイなまま、記憶に残しておきたい」
「仙台にいたら、うちの新聞社も系列のテレビ局もうるさくなるぞ。悪いことは言わない。仙台から出ていけ」
「そうするさ。どうせ、あと数日でこの家を引き払って東京へ行くし」
「そうか、ならいい。ところで、莉久の葬式はどうなるんだ?」
「芸能事務所が主催して密葬。表向きは突然の引退にするんだって」
「死んだことすら隠されるってわけか。ほら、このフレーバー、置いておくぞ。莉久にささげてほしい。それが俺からの願いだ」
會田はそう言うと、玄関から出ていって、扉を閉じた。そして、扉の向こうから、思い切り何かを叩きつける音が響いた。
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