第25話

 オオツカ・ミライによって、翔と莉久の遺体は処理された。

 翔は覚せい剤の製造でオオツカ・ミライの業務を妨害していたため、逆鱗に触れた大塚社長が直々に復讐をした。翔の存在をこの世界から抹消するため、翔の遺体は大塚みずからが解体。何十個にも分割され、東北大学青葉山キャンパスの裏に広がる広大な原生林に捨てられた。

 莉久は翔の自殺に巻き込まれて亡くなっただけだが、有名人の莉久が殺されたと発覚すると、社会的影響が大きい事件とみなされ、警察の入念に捜査すると考えられる。オオツカ・ミライにも捜査の手がおよぶかもしれない。大塚社長の命令で、莉久を事故で死んだと見せかけることになった。

 真夜中、オオツカ・ミライの社員たちとともに、愛宕山脇のカーブにいた。社員たちはそのカーブに莉久の遺体を載せたキャストを停車させた。そのカーブにめがけ、全長十八メートル、総重量二十八トンコンテナトレーラーが猛烈なスピードで走ってくる。運転手は、オオツカ・ミライの金融部門の子会社から数千万円単位の借金があったが、返済できず、オオツカ・ミライは借金の回収のため、多額の保険金をかけた運転手を事故死させ、その保険金をとろうという算段だ。

 LSDで錯乱した運転手は、なんの迷いもなくカーブに突っ込んだ。莉久のキャストは文字通り潰れて、その潰れた車体から莉久の肉片が見えた。その場で嘔吐した。あっけない最期。おぞましかった。両親はここで死んだ。莉久は肉の塊にされた。大事な人はみな、いなくなった。絶望が目の前を覆う。


 翌朝、警察がカーブへやって来て事故の捜査をしたが、遺体の損壊が激しく死因の特定すらままならなかったという。昼過ぎ、シワひとつない制服を着た、同年代の警察官が土樋のマンションへ来て、事故の参考人として警察署へ連れていかれた。真っ白い取調室で、年老いた刑事たちに囲まれて事情聴取をされた。事件に何の関係もないことを説明するため、大塚から事前にもらった想定質問集にしたがい、機械的に回答した。全員、なんの疑いもなく納得し、俺を家に送り返した。大塚に「警察から帰ることができた」と事務的なメールを送ったが、全く返事が来なかった。仕事で付き合い出して四年、すべてのメールを三十分以内に送り返すはずの大塚が、このメールを送り返さなかったということは、俺のことを無視したということと同じ意味だった。

 夜、なにもない土樋のマンションで、ただ呆然と天井を眺めていた。翔は狂って死んだ。莉久は翔の道連れにされ、殺されたあげく、肉の塊にされた。理解が追いついていない。他人事のように思えた。

 そのとき、チャイムが鳴った。

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