第18話

 帰宅したあと、翔はリビングで莉久の肩をつかむと、突然怒鳴りつけた。

「お前みたいな、エロいコスプレで男をたぶらかすバカ女が、なんでプロデビューできるんだ? なあ、どうせ、汚い手でも使ったんだろ? 芸能事務所の人間とセックスしたんだろ、そうだよな? なあ、答えろよ?」

「……はあ? あんたの方がバカじゃん。ちゃんとスカウトされてデビューしたんだよ。なに、ふざけたことを言っているの?」

「じゃあ、証拠を見せろよ。事務所の人間と寝てないって証拠を、な」

 翔は、肩にかけた手を動かし、莉久の首を思い切りつかんだ。

「翔、やめろよ!」

 急いで翔の手をつかむ。

「うるせえ、奏太! 黙ってろ!」

「寝てないって。当たり前でしょ? 会社の連絡先を教えるから、聞いてみてよ?」

「事務所の人間は全員お前の味方。ウソをつく」

「じゃあ、どうやって証明しろっていうの?」

「そんなの、お前で考えろ! 殺すぞ!」   

 翔はいきなり莉久の顔面を殴った。莉久は床に倒れた。莉久のもとに近寄る。唇が切れて、血が流れていた。

「翔、ひどいぞ。お前はクズだ!」   

「ふざけんじゃねえ、お前らのほうがクズだ! 俺より能力が低いはずに、東北大学とか國學院大學に行きやがって! これぐらい、俺が受けてきた痛みよりもマシだろ!」 

「なによ、私だって辛いよ! 本当なら私だって、お父さんが心筋梗塞で死ななければ、心が壊れずに大学へ通えて卒業できたはず! ふざけないで!」

 莉久が叫び、すすり泣きはじめた。翔は一気に黙り込んだ

「なんか、お前らに失望したわ。ダメだ。イライラする。JRビルのジムに行って、身体を動かしてくる。あのジム、こんな夜中にもやっているから、マジで神」

 翔は、床に落ちていたボストンバッグを拾い上げると、ゆっくりと玄関へ行き、外へ出ていった。

 それから夜が明けるまで、ソファーに座りながら、泣き続ける莉久を抱きしめた。莉久を守らないといけない。そのためには、努力しなければ。お金を稼いで、偉くなりたい。

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