第17話
れから雪の降る日が何回かあった。次第にみぞれが降るようになった。春も近い。
死体についての報道はオンラインニュースのあの一件だけで、ひとまず安心した。翔と莉久と俺は冷静さを取り戻していた。そして、嬉しいことがあった。莉久がプロデビューして、マンガ雑誌の表紙と巻頭グラビアを飾ったのだ。発売当日、莉久と俺は、翔に黙って二人でコンビニに行った。雑誌を手に取る。表紙に映った莉久は水着を着て、猫耳のカチューシャを片手でおさえながら笑っていた。嬉しい。横にいる莉久も、笑っていた。
その晩、翔と一緒にまた死体を捨てに行く。今日はまた一段と冷える。防寒用のタイツを履いていても、マリンスーツ越しに冷たさが伝わった。
「寒みぃなあ! 早く終わらせるぞ!」
翔が悪態をつきながら、死体をしっかりと両手でつかむ。
今日の死体は老婆だった。小学校の教員を定年退職後、支倉町の小さくて洒落た高級マンションに独り暮らしをしていたが、孤独死をしたという。大家が大塚の高校の同級生なのだという。孤独死がバレたら事故物件になって、物件の価値が下がってしまい借り手がつかなくなってしまい、家賃収入が減ってしまう。どうしても、死んだことを隠したいと翔に依頼したらしい。
老婆の長い白髪が、水に浸かって広がっている。髪に水の抵抗がかかるせいで、前に進みづらい。早く捨てたい。だが、見つかりやすい場所には、もう捨てられない。
奥へ進むと、横目に通路が見えた。以前、メンヘラカップルの死体を捨てた場所だ。その通路を横切るように、黄色いテープが何重にも執拗に巻かれ、テープに書かれた「立入禁止 宮城県警」の文字が、ヘッドライトに照らされてはっきりと見えた。
「グズグズすんな!! ここに捨てるのも最後だ。別のところを探さないといけない! 八木山橋から、死体を竜ノ口渓谷に落とそうか? 自殺の名所だから、そんなに怪しまれないんじゃね?」
べらべら喋る翔についていき、水路を何回か曲がると、目の前は袋小路になっていた。白い骨が山のように積まれている。みな、翔と莉久と俺が捨てた死体だ。
翔は、老婆の死体を置くと、落ちていた頭蓋骨を拾い上げ、いきなり壁へ叩きつけた。
「金だ、金! みんな、金だ! 金しか信じられねえから、こんなクッソみたいなことやるんだよ! みんな、俺に黙って活躍しやがって! 裏切られた、クソ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます