第15話
夜七時、大学での仕事が終わって地下鉄に乗っていると、翔から「本社へ来るよう」にとのメッセージが届いた。急いであすと長町の本社へ行き、二階中央の会議スペースへ入ると、莉久と翔、新しい部長が総出で据わっていて、重苦しい表情をしていた。
「なんでみんな暗い顔をしているんだ……?」
「いよいよ赤字だ。東海地方の売り上げが、ほとんど消えた」
新しい経理部長の大友が席から立ち上がる。
「榎本さんに説明します。東海地方はわが社の経営戦略条、重要な拠点です。昨年の売上高の四〇%は、東海地方からのものです。東海地方はわが社のドル箱と言っても過言ではありません。ですが、今年春に名古屋市で立ち上がった半官半民の企業・ナゴヤ王国が、じわじわと成長。十月以降は愛知県庁、名古屋市役所、地元の有名企業やマスコミを巻きこんだタイアップ戦略により、シェアを拡大。東海地方におけるわが社の売上が前年比六割減です」
「俺は知らなかったんだ。ナゴヤ王国がそんなに力をつけていただなんて! もっと早く気付けばよかった! そうしたら、名古屋に行って市場調査をしたのに!」
翔が机を叩く。
莉久がすかさずフォローに入る。
「翔のせいじゃない。前の経理部長があまりに無能だったの。東海地方で売上が落ちても、何一つ、原因を分析できなかったのよ」
「いや、違う。あれは無能じゃない。策士で、しかもクズだ。何度もクビを切ろうとしたけど、クビにすべき根拠がない。勤怠は良好、しっかり報告書を出して仕事はしていた。会議でもそこそこ発言。だけど、今考えると、それは全部、あいつがクビを回避するための策。会社のためを思って提言したことなんて、俺の記憶にない。そういう人間に経理部長を任せた、俺の責任だ。それより、莉久、奏太、これを見ろ」
翔はスマホの画面を見せつけた
「ナゴヤ王国とタイアップしてるこのコーヒーメーカー、磯社長の会社だよな? この前、フレンチレストランで磯社長とサシでメシを食べたとき、『スガワラ王国とタイアップしてくれ』って頼んだら、磯社長、すぐオッケーした。でも、それから会ってくれない。なんでかなって思ったら、これだったのかよ。俺を裏切って、同業他社とタイアップするなんて、卑怯にもほどがあるだろ」
翔は深くうなだれていた。
「翔、聞いてくれ。俺も磯社長とサシでキッチンONのカレーを食べたんだ。磯社長、その席で俺をヘッドハンティングしようとした。もちろん、俺は断った。」
「……磯の野郎。俺たちの信頼をズタズタにしやがって。芯まで腐った、クズだな」
翔は椅子を蹴りとばした。会議室に、重苦しい沈黙が漂う
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