第13話

 深夜、プロボックスは愛宕山・公務員宿舎の駐車場に停まった。バックドアを開けると、ラゲージにゴッドの遺体が横たわっている。遺体は痩せていたが、全身がくまなく筋肉で覆われている。そして、驚くことに、全身のいたるところにサタンのタトゥーが掘られていた。

「ゴッドなのに、サタンのタトゥー。ジョークかよ」

「ちがう、多分、これはマジだよ。経営者は善良な神じゃできねえ。悪魔そのものにならないといけない」

 翔はつぶやくと、遺体をラゲージから引きずりだした。ヘッドライトに照らされた遺体の首には、太くて青い痣。首を吊ったロープの痕。

 翔は上半身、俺は下半身を抱きかかえる。崖の穴へ入り、水路へ侵入する。水路の水面は、どこからか入ってきた落ち葉が覆い尽くしている。無言の翔についていき、複雑な水路を何回も曲がる。水路が行き止まる。陸へあがると、目の前に錆びついた金属の扉があった。

「今日はここに捨てる」

 翔が扉を押して開ける。奥には広い空間が広がっていて、その空間には数え切れないほどの木の棚がびっしりと並んでいた。その棚のところどころに、半分崩れかけの大きな樽や割れたビンが転がっていた。

 部屋の中を少し進んで、翔は棚を指さした。その棚の中段に、遺体を納めた。

「スガワラ王国の国葬だ。このゴッドは、王立大学の総長。丁重に葬らないと」

 翔は持ってきたアメスピを箱ごと、遺体に脇にそっと置いた。

「生前、アメスピが好きだったらしい。あの世でも、いっぱい吸ってくれればって思う」

「翔、お前らしくねえぞ。普段、遺体に同情しないよな。なんでこんなことしてるの?」

「経営者はね、孤独なんだよ。経営者同士じゃないと、その孤独は理解してくれない」

翔は手を合わせて、小さく合掌した。

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