第11話

 タクシーに乗りこんだ。翔が急かすのでタクシーは渋滞しがちな国道二八六号線を避け、裏道を猛烈なスピードで走り、のっぺりした広瀬橋を渡っていた。

 車窓を眺めながら考えた。世の中にはとんでもないクズを商材として売るビジネスがある。そんなクズも、商材を買う人間がいると、たちまち価値がつく。ただの金ピカな缶を二五〇万円で売ったり、月の土地一エーカーを三〇〇〇円弱で売ったりする。「スガワラ王国・運輸大臣」のステッカーだって、市販品よりも高いのに、飛ぶように売れている。特に、タクシー業界で流行している。振り返ると、このタクシーのリアガラスにもしっかりとステッカーが貼ってあった。スガワラ王国で働く身として言っていけないんだろうが、なんでこんなものを買う気になれるんだろう。あまり理解できない。

「なあ、運輸大臣のステッカー、もう少し値下げしないか?」

「うるせえ。お前、そんなことより、今日は会社の代表なんだろ? そんな安っぽいスーツ着て、恥ずかしくないの?」

 翔が指をさしてくる。喪服のような暗い黒のリクルートスーツ。袖のボタンが、いつもの間に欠けていた。就活のときから使っているスーツは、くたびれてしまっている。腕時計も、どこのメーカーだかわからない。これ以上機嫌を損ねたくないので黙っておく。翔はため息をつきながら、資料を神経質そうにめくった。

 橋を渡ったあともタクシーは裏道をぐねぐねと曲がった。運転中、年老いた運転手がうずうずしながら、こちらを何度も振り返りそうになった。おそらく声をかけたかったのだろう。だが、翔は運転手の様子に気づくことなく、ずっと黙っていた。

 白北新聞社へついた。エントランスに入り、受付に詰め寄った。

「地域経済部の會田を出せ! 川内高校の同級生、菅原翔と榎本奏太だ。そう言えばわかるはずだ! いますぐ!」

「失礼します。私どもは、株式会社スガワラ王国社長の菅原と、社長室の榎本と申します。朝刊のコラムについて、會田様へ問い合わせたいことがありまして……」

「會田ですか、少々お待ち下さい……」

 受付は目を見開き、少し青ざめながら受話器を取ってボタンを押し、ぼそぼそとしゃべると、首を縦に振った。

「すみません、誠に恐縮ですが、會田は突発の出張で今から東京へ行くため、対応ができないとのことでした」

「ふざけんじゃねえよ! 逃げるために思いつきで作った口実だろ、そんなの!」

 翔はエントランスを抜け、エレベーターへ向かおうとしたが、警備員が走り寄って、翔を羽交い締めにした。警備員は、俺たち二人を外へ追い出すと、警棒を手に持って、ぼそっとつぶやいた

「川内高校を出ているエリート様のくせに、無様だな。バーカ」

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