第4話
社長室のドアを開けるやいなや、大塚はなんのためらいもなく上座の応接ソファーに腰を落とした。翔と俺は、頭を下げながら下座へ座った。
「菅原さん、榎本さん、いつもの仕事、お頼みしますよ。報酬は現金前払いで。こういう汚れた仕事は、現金で決済するのが一番ですからねえ」
大塚は持ってきたカバンを開け、半透明のクリアファイルと札束を取り出すと、机の上へ投げ捨てるように置いた。翔はクリアファイルを手に取り、中身を引き抜いた。
男と女がベッドで寝ている写真だ。男は狼系のイケメン。痩せていて、肌が青白い。髪はグレーのウルフカット、トップスは黒く、ぴっちりとしたスキニーパンツを履いていて、ラウンド型の縁メガネが輝いていた。
女は絵に書いたような地雷系。男よりさらに痩せていた。黒の十字架があしらわれた刺繍襟のブラウスを羽織り、下半身はガーターベルトに網タイツ。靴はピンク色で厚底のリボンパンプス。二人とも、むき出しにされた腕に、注射痕があった。火傷のあとのように、赤くて醜い。
「この二人は東北大学文学部の学生。エリート様なのに、メンヘラ。どうしようもないバカ。今朝、立町のラブホで死んでいたのを清掃員が見つけました。死因はオーバードーズによる心不全。近くに注射器がゴロゴロ転がっていました。おそらく、覚せい剤を打ってキメセクしたんでしょう。ホテルのオーナーとして、死体を隠していただくようお願いしに来ました。菅原さん、榎本さん。二人の遺体、今日中に隠せます?」
「今日中ですか。突然ですね。本音を言うと、明日の明け方まで待ってほしいです。なんで、そんなに急ぐのですか?」
「女の両親が捜索願を出しています。父親が、よりによって県警の幹部らしく、警察が全力で捜査しているそうです。見つかるのも時間の問題です。ホテルとしては、遺体が見つかると悪評が立って、売上が落ちる可能性が大きいので……」
大塚は発言だけは丁寧で、眼光は鋭く、言い終えると椅子へふんぞり返って座り、足を組んだ。
「わかりました。ただ、突発の業務のため、料金は割増でいただきたいのですが」
「嫌ですね。いつもどおり、一人あたり五十万円、計百万円で手を打っていただきたいですね。おまけとして、余っているMDMAを無料であげますよ。それでどうでしょう。おっと、あなたたちが薬をヤッてるってこと、警察に言ってもいいんですからね」
大塚は口角を歪めて笑うと、胸ポケットからマルボロを取り出して吸い始めた。
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