第3話

「これでいい」


と、ふたりで唱えると元の世界か次の異世界へ意のままに行ける。移動中や異世界にいる間は会話を許されているがふたりともたのしい、というものが思い浮かばなくて。接点のある質問や思いを持つと部屋に強制送還され、一定の時間が過ぎてから。

「天使さま」と呟くと転移の間、と呼ばれるような場所で四角く白い空間でもう片方を待つ。

制約の一つに移動はふたりで、ただし片方が特定の異世界で生きていこうという場合、もしくは片方が脱落する場合は。

残りのひとりでの移動が可能になる。

とくに問題はなく、異世界流浪譚は進んで行った。

食べ物の少ない異世界では、たくさんの人々が、ひとつのイチジクの種を、ひとりひとつわけて、たべていた。

服の多い異世界では布が余り建物の専用の棒から旗のように垂らし、幾重もの色の川を街に作っていたが街の人は室内で、最低限の肌着で生活し、外に出る時はお揃いのローブで、まったくおしゃれをしない。

世界にたった一つの時計が止まってしまった異世界ではロストテクノロジーを他にも探そう!と冒険者たちがかつての科学の痕跡や物理法則を説明しようとしたが荒廃した大地で考えをまとめる紙も広大な更地や木の棒もなく、さりとてなんとか頭の中でかつての哲学者たちのように頭脳だけで論理だてしようにもまとまらず、文明は迷走していた。

昆虫が大きい世界は、安全な場所で怖いもの見たさで後から思えば観察したいか、と問われれば却下だ。人々は最新兵器で虫を倒してご馳走にしていた。


どこもここでいいとは思えなかった。

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