「私はあれを呪魔法と呼びたくないわ。もっと理論的な名前を付けて本に書くんだから」
「アリシアのおすすめの本はあるかい?」
「ええ、もちろんあるわ。この本は、ヴァルナ・シンと呼ばれるイシュタラの最高傑作と言われる呪詛の書よ。呪詛の種類や効果、発動方法や対処法など、詳しく書かれているの。私はこれを読んで、呪詛力を磨いたのよ」
アリシアは、本棚から一冊の本を取り出してセイレンに見せた。
「これはすごいね。でも、これを読んでも私には呪詛は使えないよ。人族には呪詛力がないからね」
セイレンは、本の表紙を眺めた。
「そうだったわね。残念ね。でも、呪詛に対する知識は持っておいた方がいいわよ。万が一、呪詛にかかったときに備えてね」
アリシアは、本をセイレンに渡した。
「ありがとう。じゃあ、これを見てみるよ。アリシアが読んだ本なら、きっと面白いと思うよ」
セイレンは、本を受け取って笑った。
「ふん。私が読んだからといって、面白いとは限らないわよ。私の趣味に合わないかもしれないし」
アリシアは、鼻を鳴らした。
「でも、私が読んだからといって、つまらないとも限らないわよ。私の趣味に合わせてくれるかもしれないし」
アリシアは、目を細めた。
「どっちだよ。まあ、いいや。とにかく、これを読んでみるよ」
「この本は本当にすごいね。呪詛の歴史や理論、実践や応用まで、あらゆることが書かれている。これがイシュタラの最高傑作と呼ばれるのも納得だよ」
セイレンはヴァルナ・シンを閉じて、アリシアに感想を述べた。
アリシアはセイレンの隣に座って、満足そうに微笑んだ。
「でしょう? 私はこの本に教えられたことがたくさんあるわ」
セイレンはアリシアの瞳に見入った。彼女は呪詛の天才と呼ばれていたが、それでもまだ学ぶことに飽きない。彼女の好奇心や情熱は、セイレンにも刺激を与えていた。
「ねえ、アリシア。僕たちも、こんな本を書いてみないか?」
セイレンは思い切って提案した。
「え?」
アリシアは驚いてセイレンを見た。
「どういうこと?」
「僕たちは、今まで呪魔法を研究してきたじゃないか。その成果をまとめて、エデンヤードの人々に伝えることができたら、どうだろう?」
セイレンは熱く語った。
「僕たちは呪魔法を使って、多くの困難に立ち向かってきた。その経験や知識を共有すれば、エデンヤードの平和や発展にも貢献できると思うんだ」
アリシアはセイレンの言葉に考え込んだ。彼女も呪魔法に関心があったし、セイレンと一緒に研究するのは楽しかった。しかし、それを本にするとなると……。
「でも、それって大変じゃない? 本を書くなんて、私には無理よ」
アリシアは困った顔をした。
「私は呪魔法を使うのは得意だけど、文章を書くのは苦手だし……」
「大丈夫だよ。僕が手伝うから」
セイレンは優しく笑った。
「僕は文章を書くのが好きだし、読むのも好きだから。アリシアが教えてくれることをまとめて、分かりやすく説明するよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……でも、本を書くって時間もかかるし、面倒くさいし……」
アリシアは迷っていた様子だったが、ふと何かに気づき、セイレンの方を向いた。
「そうだ、思い出したわ。この前、エデンヤードの市で見かけた本を覚えてる?」
アリシアは急に言い出した。
「あの、ラブ・ラブ・ファイヤー・アタックとかいうふざけた本よ。あれ、本当に腹立たしかったわ」
「ああ、あれか。確かに、あれは確かに……ちょっと脚色が過ぎるというか」
セイレンは苦笑した。
「過ぎるなんてもんじゃないわ。捏造よ」
アリシアはまだ根に持っていた。
「だから、あんな本を読んだ人たちに、本当のことを教えてやりたいの」
「なるほど。それなら、本を書くのも悪くないかもしれないね」
セイレンは納得した。
「僕たちの呪魔法の真実と素晴らしさを伝えることができる」
「そうよ。あの戦いの真実を伝えるべきだわ。そしてラブ・ラブ・ファイヤー・アタックだの、ノクターナ・レイン・アヴァロン・ストライクだの、間違った呪魔法を正さないと」
「ちょっと待って。ノクターナ・レイン・アヴァロン・ストライクは僕が名付けた本当の名前……」
「はぁ? そんな恥ずかしい名前、誰が信じると思ってるの? 私はあれを呪魔法と呼びたくないわ。もっと理論的な名前を付けて本に書くんだから」
数年後、彼らの本はアグニ・イグニスという名で出版される。それは、火と闇の力が融合した炎の意味であり、彼らの絆と力を象徴していた。アグニ・イグニスは、セイレンとアリシアの共著であるが、彼らの子孫もその執筆に関わっていくことになる。彼らは、それぞれの種族の特性や知識を生かして、呪魔法の可能性を広げていった。時には、新しい呪魔法を発見したり、古い呪魔法を改良したりすることもあった。しかし、それらの呪魔法はすべて、セイレンとアリシアが発見した呪魔法に基づいていた。彼らは、その炎の力を大切にし、世代を超えて伝えていくことを誓った。
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