「なに、あなた、そういう趣味なの?」
ハルモニエラの図書館で、セイレンとアリシアはいくつかの本を開いていた。この図書館は、エデンヤードの中心に位置し、人族と魔族の双方の知識や文化を収めた本が並んでいる。この図書館が建設されるまでには、かなりの苦労があった。
最初は、人族と魔族の本を一緒に置くことに反対する声が多かった。人族は魔族の本に呪いがかけられているのではないかと疑った。魔族は人族の本に偽りや偏見が含まれているのではないかと不信感を抱いた。しかし、セイレンとアリシアは、互いに理解し合うためには、互いの本を読むことが必要だと主張した。彼らは自らの本を持ち寄り、互いに見せ合った。そして、本に書かれたことについて質問したり、意見を交わしたりした。
その様子を見た人族と魔族も、次第に興味を持ち始めた。彼らも自らの本を持ち寄り、互いに見せ合った。そして、本に書かれたことについて質問したり、意見を交わしたりした。そうして、人族と魔族は互いの本を読むことで、互いの知識や文化について学び始めた。そして、互いの本を保存する場所が必要だと感じ始めた。
そこで、セイレンとアリシアは、人族と魔族の本を一緒に置く図書館を建設することを提案した。彼らは自らの資金や人材を提供し、図書館の設計や建築に携わった。そして、数ヶ月後、ハルモニエラの図書館が完成した。この図書館は、人族と魔族が共有する知識や文化の宝庫となった。そして、人族と魔族が互いに尊敬し合う場所となった。
「アリシア、この本に書いてあることは本当かい?」
セイレンは、ハルモニエラの図書館で見つけた本を手に、アリシアに尋ねた。
本のタイトルは「魔族の恋愛事情」。人族の作家が魔族の文化や習慣について調査したものだった。本の中には、魔族は自分の恋人に噛み跡をつけることで愛情を示すという記述があった。セイレンは、そのことが気になっていた。
「あー、そういう考えをする魔族もいるわね。確かに」
アリシアは答えた。
「でも、噛み跡って痛そうじゃないか。それで愛情が増すなんて、理解できないよ」
セイレンは、首筋に指を当ててみせた。
「噛み跡は痛くないし、むしろ気持ちいいって考える魔族もいるのよ。それに、噛み跡があれば、恋人が自分だけのものだと確信できて、他の人に目移りすることもないって」
「そういえば前にアリシアも僕の首筋に嚙みついてきたことがあったな。アリシアもその派閥なのか」
「あれはちょっとふざけただけよ。それに噛み跡が付くほど強くはしなかったでしょ」
「じゃあ、もう一度やってみてよ。今度は本気で」
「なに、あなた、そういう趣味なの?」
「人族と魔族の文化の違いを理解するためだ。そういう趣味にもなろう」
セイレンが笑って言う。
「馬鹿言ってないで、他の本の調査もしなさいよ」
アリシアはあきれたように言った。
「人族の本は、音楽や芸術に関するものが多いわね」
アリシアはいくつかの本をめくりながら言った。
「そうだね。人族は感性の豊かな種族だから、音楽や芸術を楽しむことが好きなんだ」
「感性の豊かさって、何か役に立つの?」
アリシアは、本棚から一冊の本を取り出して見た。 表紙には、色とりどりの花が描かれていた。
「これは何?」
「それは、花言葉というものだよ。人族は花にそれぞれ意味を持たせて、贈り物やメッセージに使うんだ」
セイレンは、アリシアの手にある本を指さして説明した。
「例えば、この赤いバラは愛情を表すし、この白いカスミソウは純真さを表すんだ」
「ふーん。じゃあ、この黒いバラは何?」
アリシアは、本の中にある黒いバラの絵を見つけて聞いた。
「それは……死や別れを表すんだ」
セイレンは、少し顔を曇らせた。
「人族は、黒いバラを好まないんだ。不吉なものと考えられているからね」
「そう。私は好きよ」
アリシアは、黒いバラの絵に見入った。
「私にとって、黒は力や威厳を表す色だもの。魔族の象徴でもあるわ」
「そうか。魔族と人族では、色に対する感覚が違うんだね」
セイレンは、アリシアの言葉に納得した。
「でも、それも面白いと思わない? 違う文化や価値観を知ることで、自分の視野が広がるし、相手の理解も深まるんだ」
「……まあね」
アリシアは、本を閉じて本棚に戻した。
「でも、私は音楽や芸術よりも、戦闘や呪詛に関する本の方が興味があるわ。そっちの方が役に立つし」
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