「でも、もし私たちを信じられないなら、ここにいる意味はないわ。さっさと帰りなさい!」

「やめて、ニールくんをいじめないでよ!」

カイラは魔族たちの前に立ちはだかった。


「ふん、人族のくせに何様だ。こいつは私たちのものだ。お前に関係ないだろう」

魔族の一人がカイラに向かって吐き捨てた。


「関係あるわよ。ニールくんは私の弟みたいなものなんだから。どうしてこんなにひどいことするの?」

カイラはニールを守るように抱きしめた。ニールはカイラの背中に顔を埋めて震えていた。


「ひどいこと? 笑わせるな。こいつは魔族の恥さらしだ。人族と仲良くするなんて、裏切り者だ」

魔族の一人がニールを指差して罵った。


「裏切り者じゃないわ。ニールくんは優しい子よ。人族も魔族も関係なく、みんなと仲良くしたいだけなんだから」

カイラはニールを擁護した。


「そんな甘い考えは捨てろ。人族と魔族は永遠に敵同士だ。エデンヤードもハルモニエラも、ただの表向きの嘘だ。本当はお前たちを憎んでるんだよ」



「あら、それは興味深い洞察ね。詳しく聞かせてもらえるかしら」

突如頭上からかけられた声に、魔族の男が振り返った。


「えっと、あなたは……」

男は声の主を見て、言葉に詰まった。


「アリシア・ノクトゥルナよ。あなたはハルモニエラに来て何をしようとしているの?」

アリシアは優雅に微笑んだ。彼女の目には好奇心と皮肉が混じっていた。


「私は……私は人族と魔族の関係を改善しようと思って……」

男は弱々しく答えた。彼はエデンヤードの理念に共感し、ハルモニエラにやってきた一人だった。しかし、そこで出会った人族は彼に冷たく当たった。彼らは魔族を信用せず、敵視していた。


「改善しようと思って? それはどうやって?」

アリシアはさらに問い詰めた。


「ええと……話し合って、理解しあって……」

男は言葉を探した。


「話し合って、理解しあって……それで何が変わるというの? 人族と魔族は根本的に相容れない存在よ。歴史も文化も価値観も違う。そんなものを一朝一夕で変えられると思うの?」

アリシアはさらに聞いた。


男はアリシアの言葉に顔を歪めた。彼はエデンヤードに来てから、人族との交流を求めてハルモニエラに足を運んでいた。しかし、彼に不信感を抱き、偏見を持つ人族に会ううちに、理想と現実のギャップに耐えられなくなった彼は、ついに爆発してしまったのだ。


「私は……私は本当に人族と仲良くなりたかったんです。人族と魔族が平和に暮らせる世界を信じていました。でも、それは嘘だったんですね。どうやっても、人族と魔族は分かり合えない。だから、私はあきらめました。あなたたちのような夢見がちな人族や魔族にはもう関わりたくありません」


彼はそう言って、アリシアから目を背けた。アリシアは彼の態度に怒りを覚えたが、同時に哀れみも感じた。



「あなた、名前は?」

アリシアは聞いた。

「シオン・アルティスと言います」


カイラはシオンの言葉に悲しみを感じた。彼女はシオンの隣に座り、優しく手を握った。

「シオンさん、私はあなたの気持ちが分かります。私も人族と魔族が仲良くなれると信じていました。でも、ハルモニエラに来てから、そんなことは難しいのかもと思う時もありました。人族も魔族も、互いに理解しようとしないで、先入観や偏見で判断してしまうんです。それが悲しいし、腹立たしいです」

カイラはシオンの目を見つめた。

「でも、だからと言って、あきらめるのは早すぎませんか? 人族と魔族が仲良くできる可能性はまだ残っています。私たちはその可能性を探すために、エデンヤードに来たんです。あなたもそうじゃなかったですか?」


シオンはカイラの言葉に動揺した。彼女は自分と同じように、人族と魔族の関係に悩んでいたのだ。しかも、彼女は人族だった。彼はカイラの手を振りほどこうとしたが、彼女の力は強かった。

「離してください。あなたは人族です。私とあなたは違います。あなたに私の気持ちは分かりません」

シオンはカイラに言った。


「違いますよ。私たちは同じです。私たちは人族と魔族の関係を望んでいます。私たちはエデンヤードで暮らしています。私たちは友達です」

カイラはシオンに笑顔で言った。


「友達? 私とあなたが友達だなんて、笑わせるな」

シオンはカイラの笑顔に苛立った。



「カイラは本気であなたと友達になろうとしているよ」

シオンは別の声を聞き、その声の方を向いた。

「こんにちは、シオン。私はセイレン・アイヴァーンと言う者だ」


セイレンはシオンに笑顔で手を差し出した。

「カイラは人族と魔族を区別しない。だから、彼女はニールとも仲良くなれたんだ。ニールは魔族の少年だが、カイラにとっては弟のような存在だ。カイラはあなたにも友達になりたいと思っている。私もそうだ」


シオンはセイレンの手を見て、眉をひそめた。

「なぜだ? なぜ私たちと友達になりたいと思うのだ? 私たちは敵同士だったはずだ。あなたは人族の元国王で、私は魔族の一員だ。あなたは私たちを見下しているに違いない」


セイレンはシオンの言葉に首を振った。

「違うよ。私は魔族を見下していない。私は魔族と友好的な関係を築きたいと思っている。それがエデンヤードの目的だからね」


シオンはセイレンの言葉に疑いの色を隠せなかった。

「本当か? 本当にそう思っているのか? それなら、あなたの妻である魔王アリシア・ノクトゥルナについてどう思っているんだ? 彼女も魔族の一員だぞ」



「妻? え、私?」

アリシアはシオンの言葉に動揺した。

「私たち結婚した? おめでとう?」


「アリシア落ち着いて」

セイレンはアリシアに笑いながら言う。


「アリシアは私の妻ではまだないよ。今はね」

セイレンはシオンに答えた。

「でも、彼女は私にとって大切な人だ。彼女も魔族の元魔王だが、私は彼女を魔族としてではなく、アリシアとして見ている。彼女は私と同じく、人族と魔族の平和を望んでいる。だから、私たちはエデンヤードの共同領主となったんだ」


「ふん、そうか。それでも、私は信じられない。あなたたちは本当に人族と魔族の仲を良くしたいと思っているのか? それとも、私たちを利用しているだけなのか?」

シオンはセイレンに不信感を隠さなかった。


「魔族が利用されるだけなんてことは、私がセイレンと一緒にいる限りありえないわ!」

アリシアは高らかに宣言した。


「私たちは本気で人族と魔族の平和を目指しているのよ。私たちがエデンヤードを作ったのは、人族と魔族が互いに理解し合える場所を作りたかったからなの。だから、ハルモニエラにも来てくれてありがとう。でも、もし私たちを信じられないなら、ここにいる意味はないわ。さっさと帰りなさい!」

アリシアはシオンに言い放った。


「アリシア、落ち着いて」

セイレンはアリシアの肩に手を置いて、なだめようとした。


「シオン、私たちはあなたに何も悪いことをしようとしていないんだ。本当に。私たちはただ、人族と魔族が仲良くなれるように努力しているだけなんだよ」

セイレンはシオンに誠実な目を向けて言った。

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