第4話 味方の×実力が×おかしい

 なるほどなるほど。


 つまり、フサルク星人でもないのにルーン核に封印された挙句、人造勇者像に埋め込まれ、生体兵器として扱われている最中だと。


 なにやってんの、シロウのやつ。


「お願い!」


 ナッツが俺にすがるように、涙ながらにしゃがれた声を絞る。


「シロウを、たった一人の大切な幼馴染を、助けて……!」


 俺は乱雑にナッツを振り払った。

 彼女のことは一顧だにせず、相対する、親父殿を模した石像、人造勇者に意識を集中する。


(ったく、世話の焼ける弟だ)


 出来の悪い弟を持つとお兄ちゃん大変だぞ。


「はーはっは! 今更気づいたところでもう遅い! この人造勇者には、ルーン使いだけでなく、百を超えるルーン核をも埋め込んである! 黒きルーン使いよ、もはや貴様に勝ち目など無い。悪あがきせずに我が軍門に下るがいい!」


 ビルカルが高らかに勝利宣言をする。


 冗談。


「たしか、ビルカル、だったか」


 俺は、極めて平坦な声のトーンで語り掛けた。

 無感情に、何の感慨もないかのように。


「貴様は一つ勘違いしている」


 確かに、お前が作った人造勇者のルーン魔法は強力だ。

 一発一発の威力だけで見れば、もしかすると、親父殿さえ上回っているかもしれない。


 だから、どうした。


 いったいどうして、無数のフサルク星人を生贄に捧げた程度で俺に敵うと思った。


「俺の文字魔法は、ルーン魔法を凌駕する」


 ビルカルの表情が、不快な嫌悪感を示した。


「ほざけ! ならば証明してみせろ、貴様が、我が最高傑作である人造勇者を上回ると!」

「お前のものじゃない。ジェライスクのものだ」


 ビルカルは、人造勇者像に向かって指示を飛ばした。灰色の外骨格に身を包んだ、若かりし日の親父殿によく似た石像は、命令を厳かに実行するがごとく、俺に向かって魔法を放つ。


ケナズ


 真っ黒な炎が、らせんを描いて迫りくる。

 その炎の先端が触れた部分は、まるで空間がえぐられたかのように消滅する。

 灰も、炭も、残らない。

 強力な一撃だ。

 ベクトルを変換するルーン魔法であるユルでさえ、この一撃を反射することは叶わなかった。


 だが。


「【奪】」


 俺にとってのルーン魔法など、発動工程を簡易化した略式の魔法にすぎない。

 返すよ、ほら、受け取れ。


「なっ⁉ なぜ、貴様が我が人造勇者のルーン魔法の制御を」

「言っただろう」


 手のひらをかざし、人造勇者とビルカルを巻き込むように、黒色の炎を押し付ける。


「ルーン魔法ごときで敵う魔法じゃないんだよ、俺の文字魔法は」

「ぐっ! 俺を守れ人造勇者!」


 親父殿を模した人造勇者は、小さく首肯した。

 そして俺の前に立ちはだかると、炎であるケナズの反対魔法、水を意味するラグズの紋章を輝かせる。


 墨を流したようにどす黒い水が現れて、反射したケナズの行く手を阻む。


 それは悪手だろうが。


「水魔法は、あたしの領域」


 声がした。幼少期から、何度となく聞いた馴染みのある声だ。

 ササリス。

 希少な、糸を操る固有魔法の使い手にして、水魔法を極めし者。


 彼女が、人造勇者の生み出した闇色の水に手をかざすと、まるで海を割るように、人造勇者とビルカルへの最短路が再び現れる。


「人造勇者ぁぁぁぁ!」


 ビルカルが叫ぶ。

 だが、もう遅い。手遅れだ。


 すでにケナズの炎はやつらに肉薄している。

 人造勇者像が、次のルーンを描くころには、黒い炎がやつらの身を焼き尽くしている。


 勝敗はここに決したんだ。


 お前の敗因はたった一つ。

 ルーン魔法という俺の下位互換能力で、俺に挑んだことだ。


 せめてあの世で後悔しな。


(なんだ、こいつ、いつの間にルーン魔法を)


 人造勇者像の指先が、動いた気配はない。

 だが、ルーンの紋章が、ひとりでに虚空に踊る。


(違う、そもそもフサルク星人たちは、紋章を描くことを必要としていない!)


 彼らはもともと、体内にルーンを有している。

 それを現出させるだけでいい。

 思考にルーンを呼び出すだけで、魔法として発動できる。


(人造勇者はいわば、常時 ウィルドモードの状態! しかも反動無しの!)


 無音無動作で、反撃のルーンが俺に迫る。


 まずい。

 どうする。

 俺も ウィルドモードに入るか?

 そうしなければ、やつが手数で攻めてきたら、この勝負に――


「その、行動パターンは、学習、済」


 加速していく思考すら置き去りにして、ヒアモリの声が、銃声にかき消された。

 シロウ、いや、人造勇者の頭上に現れた紋章、打開を意味するルーン、ダガズを、ヒアモリの弾丸が貫いた。

 ソニックウェーブが空間を揺らがせた。

 描かれていたはずのダガズの一部がかき消され、無効なルーンとして、魔法の理から弾かれる。


 人造勇者が、悔しそうに歯噛みした。

 まま、勝ち誇るように、もう一度ダガズのルーンが空中に描かれる。


 くっ、ここまでか。

 やはり俺が ウィルドを発動――


「言ったはず、その行動パターンは、学習済」


 ――することもなく、ヒアモリの弾丸が、再びダガズのルーンを打ち抜いた。


(一射目と全く同じ軌道上に、二射目⁉)


 前々から知っていたことではあるけれど、ヒアモリの狙撃能力がえぐい。


「クロウさんの、勝ち、です」


 人造勇者の打開策を、ササリスとヒアモリがことごとく打ち破り、真っ黒なケナズの炎は人造勇者を貫いた。


(あ、やべ。これ打ち抜いて、シロウ無事かな⁉)


 勝敗を決した後のことはまるで何も考えていなかったぞ!


 まあ、なんとかなるか。


 あれであいつも主人公なんだ。

 この程度でくたばるはずがない。


 はずがない、よね?


 ちょっと不安になってきたぞ?



*あとがき*

 近いうちにタイトルを書籍版に合わせるつもりです。

 かませ犬転生(タイトル末尾)を認識していなかった方からすれば「なんやこの小説!」ってなりかねませんが、これです。ご承知おきください。


 あと、皆さん「フォローしたコンテンツに関する特別なお知らせ」はオンにされましたか?

 15日(?)にフォロワーメールが配信されると思います、たぶん。ちょっとしたSSがついてきます。このメールでしか読めないやつです。

 貴重なメールですので、少しでも不安な方はいま一度ご確認をば。

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