第2話 炎×色×反×応
ごめんヒアモリ。
俺は内心で謝った。
というのも、ついさっき、彼女に、息も絶え絶えになりながらでもシロウの居場所を探ってもらったのだが、それをしてもらった意味が、水泡と帰してしまったからだ。
東の空から、火の手が上がる。
「クロウさん! あの真っ赤な炎はもしや、シロウさんのものではございませんか⁉」
フロスヴィンダのいうとおりだった。
シロウと俺。同じルーン使いだが、実は発動するエフェクトの色を、俺は少し変えている。
パッと見てわかりやすいのは、炎を意味する
俺の放つ炎は青、雷は紫だ。つまり、よりエネルギーが強い色に設定している。なぜならそっちの方が強そうだから。これ以上の理由が必要か? 必要ないよな、そうだよな。
一方でシロウの放つ炎や雷は、割と記号的。つまり、イメージしやすい色だ。炎なら赤・橙・黄色のあたりで、雷は黄色。実際の現象がどうより、人がイメージする色になっている。
という点を踏まえて、もう一度、東の空を見ればわかる。
(わあ、まるで子供が落書きしたような炎の色だぁ)
これはシロウ、間違いない。一目でわかる。
ごめん、ごめんなヒアモリ。
あんなに息も絶え絶えになってまで居場所を探り当ててくれたのに、必要なかったや、ごめん。
「急ぎましょう、手遅れになる前に……!」
もう手遅れなのでは?
そう思ったが、俺は大人なので口にはせずに黙っておいた。
「もう手遅れなんじゃない?」
ササリスお前! 俺がせっかく口にしなかったことを!
「いいえ、まだ手遅れではないはずです。人造勇者像の起動が目的なら、彼らはルーン核を回収し、大切に保管しているはずです。言い換えれば、肉体さえ用意できれば蘇生できるはずなのです」
出たな!
フサルク星人は肉体が壊されても死ぬわけじゃない理論!
俺はどうかと思うよ、その考え。
命を軽んじてるぞ。
(まあ、百歩譲ってフロスヴィンダ、フサルク星人のお前が言うのはわかる)
けど、シロウ、お前が言うのはダメだ。
すべての人を救うんじゃなかったのか。
大事な人を守るためなら、命を奪うわけじゃないなら、傷つけてもいいとでも思っているのか。
そうじゃない、そうじゃないよな。
「行きましょう」
フロスヴィンダの提案に頷いて、俺は歩き始めた。
門の意味で
人造勇者の話が出た以上、悠長にしている暇はないが、全部全部俺が対応していたら、ナッツとラーミアを救出した意味がなくなるからな。
彼女たちが先について、シロウを説得するだけの時間は確保してあげよう。
俺ってば、優しいなぁ。
急いでいるようで、少しのんびり戦場を目指して東へ進む。
しばらくして、小さな集落が見えてきた。
いや、集落跡と呼んだ方がいいだろうか。
不完全燃焼で煤け、真っ黒に焦げた集落からは、鼻を刺す異臭が漂っていた。
「ぐぁっ」
爆撃にも似た音がして。重厚な金属が勢いよく転がってきた。鎧だ。西洋騎士然とした鎧をまとった金色の髪の女性が、集落の方から俺の方へと転がってきた。
よく見れば、彼女の腕には、少女が抱きかかえられている。
「ラーミア、ラーミア、しっかりして!」
「くっ、よもや、これほどまで、とは……。ナッツ、お前だけでも、逃げろ」
「ダメだよ、ラーミア! そんなこと言わないで!」
「心配、するな。私は騎士だ。守る者がある時にこそ、私は、限界を超えた力を振り絞れる」
ラーミアとナッツだった。
(あ、あるぇ?)
なんでラーミアとナッツがこんなボロボロになって転がりこけてるんだ?
彼女たちを派遣すれば、シロウの暴走は止まるんじゃなかったのか?
「お願い、誰か、誰でもいい……っ!」
ナッツが、目じりに涙をため込んで、慟哭を上げる。
「助、けて……!」
ばっちり、目が合った。
涙をこらえたナッツの瞳が、俺をしっかりととらえていた。
「何があった」
仕方がないので、ナッツに話を聞いてみた。
ナッツはたまらず泣き出した。なんで?
「ごめんなさい、ごめんなさい。シロウを止めることを、託されたのに……! わたしは、わたしは……!」
胸の内からこみ上げる悔しさを噛み殺すように、力強く歯を食いしばり、ナッツは悲鳴を上げるように、声を絞り出した。
「シロウを、助けられなかった……!」
……は?
どういうこと?
「クロウさん……!」
抱きかかえていたヒアモリが、慌てた様子で俺の名前を呼んだ。刹那、俺の視界に、矢印のようなものが現れた。それが何かを考える前に、その方向を見ると、そちらで、力強い、まばゆい光が瞬いている。
(あの紋章は)
見覚えがあった。
生まれてから今日に至るまで、何度となく見てきた。
(
反射的に、俺の指先は動いていた。
紋章が輝く方向に向かって伸ばされた腕は、最速最短のルーンを描き出していた。
縦に一本走らせるだけの紋章の名は、
凍結を意味する、俺が好んで使っているルーンの一つ。
思考が脊髄反射に追いついたときには、俺の目の前に巨大な氷壁が生まれていた。
透明な壁の向こうでは、巨大な炎が、行く手を阻む氷を食い破らんと、らせんにとぐろを巻いている。
「ぐっ⁉」
俺の
俺は寡聞にして、その炎の色を見たことがない。
(黒い炎だと……⁉)
なんだそれは!
その色は、黒の名を持つ俺こそが扱うべきだろうが!
ふざけるな!
「何者だ、お前は」
氷壁の向こう。
燃え盛る黒炎の先に待つ、人影に向かって声をかける。
人影は、俺の言葉に何も返さない。
それどころか、反応のひとつ、示さない。
だが、おぼろげに、それがだれか分かった。
「親父……?」
幼児期に見た父親と、うり二つの影が、そこにたたずんでいた。
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