人の×為に=偽り

第1話 とっても×健全な×えぴそぉど♡

 この野郎、許せねえ。


 主人公と同じ見た目、同じ能力の使い手だと?

 それは俺のポジションだ。

 俺のアイデンティティに迫ってくるんじゃねえ。


 潰す!


「ヒアモリ、シロウの居場所はまだわかるか?」

「ごめんなさい」

「そうか。いいさ、謝る必要はない」


 シロウより、ナッツとラーミアを優先しようと言い出したのは俺だしな。ヒアモリに責任はない。


(まずはシロウ――より正確に言うなら、シロウを操っているフサルク星人、ビルカルを探すところからだな)


 指先に灯すは魔力が放つ淡い青の光。虚空に描くはダイヤによく似たルーンの紋章、イング。それが意味するところはルーンの探知。

 一つの地点で複数のルーンが活性化していれば、おそらくそこがシロウの居場所だ。シロウさえ見つけられれば、芋づる式にビルカルを見つけ出すことも可能、なはず。


(チッ、見つからないな……ん?)


 イングが見つけ出せるのは、あくまで励起しているルーンだけだ。魔法を発動していない状態の場合は、反応しない。

 どうやって見つけたものか、と頭を悩ませていると、ヒアモリが俺の袖を引っ張っていた。餌をねだる小動物みたいでかわいい。


「どうした」

「索敵、私の、本領」


 ふんす、とヒアモリが気張る。


 どういうことだろう、と少し考えて、言いたいことを理解する。


(そうか! イングのルーンをヒアモリに発動すれば!)


 ヒアモリには電磁波を読み解く牛鬼の力がある。

 それを活用することで、俺より高精度に、ルーンの反応をかぎ取れる可能性は十分ある。


「頼んだ。イング


 ヒアモリがぴくりと反応して、イングのルーンを受け止めた。


「んあァぁぁ――ッ!」


 良い子は見ちゃダメな感じで、ヒアモリがのけぞった。びっくりした。どうした急に、と思ったがどう考えてもイングのせいですね。

 電磁波を読み解けるということは、普段から人並外れた感度を有して外界の情報を取得しているということだ。

 そこにルーンを探知するための機能を外付けしたせいで、必要以上に過敏な反応を示してしまったのだろう。

 いわゆる、感度3000倍の世界というやつだと思われる。


「見つ、けました」


 喘鳴にあえぎながら、ヒアモリが震える手で、一つの方角を示した。

 なんだろう。目がとろんとしていて、肌がしっとり汗ばんでいるんだけど、なんか目に見えない何かを放っている気がする。むんむん発散している気がする。たぶんフェロモン。


 なんか、こう。

 偶発的な事故なんだけど、弄りたくなる愛嬌がある。


「そうか。よく頑張ってくれた、ヒアモリ。ありがとう」

「……っ、ァ、だめ……! いま、そんな優しい言葉、かけられたら、ッ」


 ヒアモリがびくびくと体を震わせながら、膝を曲げてその場にうずくまりかける。

 だから、優しい俺はそばに駆け寄り、崩れ落ちそうになる彼女を支えてあげることにした。


「~~~~ッ!」


 他意はない。


「かひゅっ、待、って、くださ、いま、触られたら」


 言いながら、ヒアモリがぎゅっと俺に抱き着いてくる。悪夢を見た子供が不安からの解放を求めるように、その細腕で精いっぱいの力を振り絞って俺にしがみついている。


 かわいい。


「みゃっ⁉」


 頭の中でかわいいって思うと同時に、ヒアモリが大きく体を震わせた。

 あ、やべ、声洩れてたかも。


 ヒアモリがみずみずしい唇で俺のシャツを甘噛みし、声を必死に殺している。じんわり、唾液があふれて俺の衣服を湿らせる。

 俺に牛鬼の力はないが、彼女がΘシータ波を放っているのはなんとなくわかった。


 力尽きるように、俺に身をゆだねるヒアモリを抱きかかえ、俺は一点を望んだ。

 ヒアモリが命がけで伝えてくれた、シロウの居場所だ。


「師匠、師匠!」


 ササリスが目をキラキラさせて俺の名前を呼んでいる。


 オーケーササリス、言いたいことはわかった。


イサ

「ぬぅん!」


 凍結を意味するルーンを放ってみたが、無詠唱で現れた水球に行く手を阻まれササリスに着弾することはなかった。ササリスは「違う、それじゃない!」と叫んでいる。


(いや、イングがヒアモリに毒だったのは明らかに体質的なものだし、ササリスに打ったところで仕方ないのでは?)


 俺がイングを扱ったところで、ヒアモリみたいに発情したりしない。

 牛鬼の影響が大きいと見て、まあまず間違いないだろう。


「行くか」

「もう! もう! もう!」


 ぷいぷいと怒るササリスをあしらい、俺は先を急ぐ。


 首を洗って待っていろ、人造勇者。

 所詮貴様など、偽りの英雄だということを教えてやる。


 ……待って、フサルク星人の肉体を破壊して回ってるシロウも英雄なんかじゃないのでは?

 やばい、この世界に英雄なんていないらしい。

 どうしようね、この後。


 うーん。




*あとがき*


前回、書籍化しますって伝えるのに必死で大事なこと何も書いてなかったので改めまして。

2/16(金)、電撃の新文芸さまから『かませ犬転生 ~たとえば劇場版限定の悪役キャラに憧れた踏み台転生者が赤ちゃんの頃から過剰に努力して、原作一巻から主人公の前に絶望的な壁として立ちはだかるような~』と題を改め発売されます!

倒置法入ってますが、表紙で見れば実質Web版と同じタイトルになります!

どういうことって思った方は表紙ページ見てきてください!

↓にリンク載せておきます!

https://dengekibunko.jp/product/322306001195.html


素敵なイラストを描いてくださったのはGarukuさま!

この場を借りてお礼申し上げます! ありがとうございます!!


作品の中身は大筋そのまま、途中式ががらっと変化した作風になっています!

一度Web版を読んだ方も、未読の方も楽しめる形式にしたので、ぜひ購入してください!

周りの人にもおすすめしてください!

よろしくお願いいたします!!!!!!


(もう伝え忘れないかな? ないよね。あったらこっそりコメントとかDMとかで教えてください)

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