第17話 ナッツ×ラーミア×救出

 番兵のフサルク星人ことジェラのジェライスクを味方に引き込むことで、俺たちはようやく、本来の目的を達成できる段階へと到達した。

 本来の目的とはつまり、彼女たちの解放である。


「シロウ……?」


 磯の洞窟の奥深く。

 石牢のような場所で、手足を壁に鎖でつながれていた少女が言う。

 もう一人の、少し大人びた、というかおっぱいの大きな女が「なんだと」と、少女に続いてこちらを見る。


「ううん、シロウじゃない」


 この部屋に光源はなく、しいていうなら俺たちがやってきた方向にある、ジェライスクとのボス部屋みたいなところから指す光があるだけだ。

 だから、そこからやってきた俺は、彼女たちから見れば逆光で姿がおぼろげなはずだ。


 にもかかわらず、ナッツは一瞬の間に、俺の正体にたどり着いたようだった。


「この感じは、あなたね、クロウ」

「何ッ、クロウだと?」


 ラーミアが素早い動きで、槍を構えようとする。

 だが、当然、脅威となりうる武器を彼女たちに渡したままのはずがない。

 この牢にぶち込まれるときに、武器は取り上げられている。


 結果として、彼女の行動は無手で槍の構えを取るというだけの奇妙な様相を呈した。

 そのことに歯噛みしているラーミアの額には、じんわりと汗ばむ様子が観測できた。


「ここに、何の用だ。まさか私たちを助けるために来たわけではあるまい」


 察しがいいね、さすがラーミアだ。

 そう。その通り。

 助けに来てあげたのだ。

 ふはは、感謝するがいい。


「あたりまえでしょう。思いあがらないで。誰があんたらのためなんかに」

「……ッ」


 おいこらササリス。

 状況をややこしくするな。


(あ、いや待てよ。そういえばササリス達には、「一つの肉体に複数のルーン核が埋め込まれれば、恐ろしい怪物が誕生してしまうかもしれない」、「それを阻止するためにも襲撃部隊よりも拠点を優先するぞ」みたいな説明しかしてなかった気がする)


 そりゃ、ササリスのリアクションもこういう感じになるよ。


 仕方ない。

 ここはひとつ、スタイリッシュな感じで彼女たちを解放してやるか。

 たとえばこんな感じ。


  ◇  ◇  ◇


 おもむろに歩き出した俺が、虚空から呼び出した妖刀ネフィリムで周囲を一閃――!

 この石牢に兼ね備えられていた性質、『拘束性』を切り裂くことで、彼女たちを囚われの身から解放する――!


「え……っ」

「どういうつもりだ?」


 ナッツとラーミアが困惑気味に、俺の意図を探っている。


「フッ」


 そんな様子を感じ取りながらも、無言でネフィリムを鞘に納刀する俺。


「待ってくれ! お前の目的は、いったいなんなんだ! なぜ私たちを解放したんだ!」


 引き留めてくれる、ラーミアなら。

 だからここに来てようやく、俺は足を止め、彼女たちへと言葉を返す。


「いずれ知る時が来る、必ずな」


  ◇  ◇  ◇


 かーっ。

 かっけえっすわ。

 これは圧倒的実力者。


 主人公陣営が苦戦しているときに通りすがり、手も足も出なかった強敵を軽くあしらうタイプの激強キャラ間違いなしですわ。


 よーしいくぞー。


 虚空より出でて、その姿を我が眼前にさらせ!

 来い、妖刀ネフィリム!


「えい」


 概念を司る剣が現出すると同時に、俺の横で風が吹いた。

 ササリスだった。

 ササリスが恐ろしく素早い動きで、虚空から呼び出したネフィリムを横からかっさらおうとしていた。


 させるか!


 反射的に手を伸ばし、妖刀ネフィリムの柄を掴む。


 あと一歩のところでネフィリムを使えたところを俺に邪魔され、ササリスが悔しそうに顔に力を入れている。


 が、まあ不意打ちさえ防げれば負けようがない。

 膂力で言えばとっくに俺の方が上だし、なんなら俺にはヒアモリ直伝の身体強化魔法もある。

 同じ条件からササリスに刀を取られる未来は無い。


「あぁ……っ! あたしのネフィリム!」


 俺のだよ! おい!


「な、なにをやっているんだ?」

「仲間割れ、かな?」


 ほらぁ!


 せっかくの俺のかっこいいシーンが台無しじゃないか!

 なんてことしてくれるんだ!


「チィッ」


 刃を水平に構えて一刀両断。

 当初の予定である『拘束性』より先に切り捨てなければいけない事象ができてしまった。


「あ、あれ?」

「なんだ、いま、意識に欠落があったような……」


 概念を切り裂く力を使えば、ターゲットの即時記憶にアクセスして、ここ数秒の出来事を無かったことにすることだってできる。

 そう、妖刀ネフィリムならね。


 まあ、ネフィリムの概念を切り裂く能力は、永続的なものじゃない。

 刀傷も時がたてば癒えるように、いずれは蘇る。

 ラーミアの時もフロスヴィンダの時も、最終的に自我を返還して自由意思を取り戻させているが、奪い続けておこうと思っても時間経過で復活してしまっていたわけである。


 とはいえ、奪ったのは即時記憶。

 短期記憶に定着しなければこの先も思い出すことはない。

 ネフィリムで切った概念は少しずつ癒えていくものなので、定着させることは実質的に不可能と言っても問題ないだろう。


 よし。どうにか場を振り出しに戻せたな。


 ところでササリス?

 怒らないから、妖刀ネフィリムを使って何をするつもりだったか言ってみ?


「ヒアモリちゃん、プランAは失敗だよ。速やかにプランBへ!」

「承知しました!」


 ヒアモリが手のひらをナッツとラーミアのいる方に向ける。

 やめんか。


「【電場】、【支配】」


 ヒアモリが放った電磁波――人をトランス状態に陥れる、催眠術を電磁場を操作することで阻止する。


「な、なにをやっているんだ?」

「仲間割れ、かな?」


 あー、もう!

 せっかく短期記憶を消したのに!

 再現するんじゃないよ!


 ぬぅん!

 唸れ、俺の妖刀ネフィリム!


「あ、あれ?」

「なんだ、いま、意識に欠落があったような……」


 もう見た! カットで!


「閃け、妖刀ネフィリム」


 俺は概念を断ち切る刃を振るい、この石牢が持つ『拘束性』を切り捨てた。やっとの思いで。


 な、なんか、すごい疲れた……っ。


 どこ行った!

 俺のスタイリッシュムーブ!

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