第13話 考えうる×最悪の×事態

 どうしよう。

 このままササリスヒアモリフロスヴィンダの三人をシロウのもとに引っ張っていったら面倒くさいことになるのが目に見えている。


 やはり伝えるべきだろうか。

 ナッツとラーミアを人質に取られていることを。

 フサルク星人の命令に従わざるを得ない状況にあることを。


 ササリスは……ダメだな。

 嬉々としてシロウをこの世から葬り去る口実にするだろう。

 危なっかしくて伝えられない。


 ヒアモリは、ワンチャンあるか?

 俺がササリスと異星間渡航の準備に奔走している間、シロウの修行をつけてくれていたし。

 いやぁ、でもなぁ。

 フサルク星に旅立つときの切り捨て方を見るに、シロウたちに強い関心を向けていないきらいがあるんだよな。

 ちょっと賭けのところがある。


 フロスヴィンダならどうだろうか。

 ありかもしれない。

 世界の平和を守るためにわざわざ異星間渡航を果たしてやってきた彼女だ。

 人質に取られている者の存在を認知すれば、それを助けようと動いてくれるのではないだろうか。


 まあ、この三人の中では比較的安全な部類なのは間違いない。

 彼女にだけは伝えておくべきか。

 問題はどうやって伝えるかだが、やはり【念話】だろうか。


「ん。クロウさん、クロウさん」


 どうしたヒアモリ。


「見つけた」


 小動物のように愛らしいヒアモリは、ふんすと鼻を鳴らした。かわいい。


 かわいいけど、うん、ちょっと待ってね。


(くっ、そうだった! ヒアモリには牛鬼の、電磁波を読み取る能力があるんだった!)


 俺がこの後の展開を考えている間、ヒアモリは周囲の索敵を行っていたに違いない。

 そして見つけてしまったのだ。

 シロウの居場所を、きっと。


 まずい。時間がない。

 三人が行動を開始する前に、どうにかしてシロウの状況を知らせないと――


「けど、妙」


 ん?

 何がだ、ヒアモリ。


「ラーミア、ナッツ。見つけたの、二人だけ。シロウは、いない」


 ……っ!

 な、なんだって!


(ヒ、ヒアモリ……! ナイスだ!)


 そっちの二人組を見つけてくるなんて、お前最高かよ!

 よくやった! さすがヒアモリだ! ササリスとは違う。

 俺は信じていたぞ、最初からな!


「あ、いた。シロウと、あと、フサルク星人」

「……」


 なにをやっているんだ!

 そっちは見つけなくていい!

 余計なことをするんじゃありません!

 信用ならないと思ってたんだよ! 最初から!


「どう、する?」


 ヒアモリが俺に問いかける。


 そこに、フロスヴィンダが割って入った。


「ここはシロウさんを追いかけましょう、これ以上被害が大きくなる前に」


 まあ、そうなるよな、フロスヴィンダ視点だと。

 だけどダメだ。それはダメだ。


 行くならナッツとラーミアの方。

 まず人質を解放して、それからシロウを探す。

 これが唯一の正しい手順だ。

 そうでなければあいつは止まらない。


「いや――」

「よーし! じゃあさっそく行こう! ヒアモリちゃん、案内してっ!」

「はい!」


 ササリスの呼びかけに応じて、ヒアモリが両手のこぶしを固めて、気合を入れた返事を返す。

 おいこら勝手に話を進めないの、かわいいけども。


「話を聞け。シロウは後回しだ」

「どうしてですか」


 フロスヴィンダが「理由をお聞かせ願えますか?」と俺を詰る。


 聞かれても困る。

 俺の狙いはシロウをフサルク星人の脅迫から解放することだけど、それを悟られたくはない。

 敵キャラなのに、困っているときには助けてくれるみたいなポジションは目指していないのだ。


 うーん。どうにか口先で言いくるめられないものだろうか。


 あ、そうだ。思いついた。


「説明している暇は――」

「ハッ! つまりそういうことですね!」


 話聞けよ。どういうことだってばよ。


「シロウさんと直接対決するのではなく、まずシロウさんのお仲間を味方につける。そして言葉での説得を試みる。暴力ではなく、平和的な解決を睨んだ一手、ですよね!」


 半分くらい合ってるの怖いな。

 実際にはナッツとラーミアは解放するだけで、味方に抱き込むつもりはないし、言葉で説得するつもりもない。

 俺の予想が正しければ、人質を解放した時点で目標は達成したも同然だ。

 俺が何か働きかけずとも、シロウはフサルク星人のいいなりをやめる、はず。


 けどまあ、それを伝えてしまうと、クロウくんの善行ポイントが上がってしまう。それは避けたい。


「いや。俺が懸念しているのは別のことだ」


 何を懸念していることにしよう。うーん、そうだ。


「見ろ」


 俺は火災にあった駐屯地と、そこに倒れ伏すレジスタンスの遺骸を示して続けた。


「ここにいるやつらは全員、ルーン核を抜き取られている。そのルーン核は、どこに行った」


 フロスヴィンダが息を呑んだ。


「シロウさんが持ち去ったのでは……?」


 確かに。そっちの方がありそうだ。


 じゃなくて。俺が説得させられてどうする。


「いや」


 ここで説得されるわけにはいかない。

 無理筋だろうと通す。


「ここに来る前に立ち寄った、ルーン核を埋め込む巨大な像のある町。あの時から思っていることがある。一つの肉体に、複数のルーン核を宿せば、どうなるのかと」

「そ、それは! そんなことをしたら!」


 フロスヴィンダの目が見開かれる。

 力強く押し上げられたまぶたに引っ張られた眦は、引き裂けそうなほどだ。


「ルーン核は、フサルク星人の自我のようなものです。それを無理やり一つの肉体に埋め込もうとすれば、精神が壊れてしまいます!」

「それが、奴らの狙いだとすれば?」

「っ!」

「複数のルーンを扱え、自我を持たず、命令に忠実な兵士を生み出せるなら。禁忌に手を出すことを理性で抑えられなくなる輩がいても、おかしくはないだろう」

「そん、な」


 もちろん、一から十まででたらめである。


(原作にそんなシーン存在しなかったし、この先起こることも無いんだけどな!)


 大事なのは、嘘か本当かではなく、相手にあり得るかもしれないと思わせられる舌先三寸だ。


「行きましょう、クロウさん!」


 フロスヴィンダの目が使命感に燃えている。


「そんな計画を、現実にするわけにはいきません!」


 よしよし。うまく話の流れを操れたぞ!


(あとはナッツとラーミアをフサルク星人の手から救出するだけか)


 簡単なお仕事だな!

 がはは、勝ったな!

 今日は調子がいいみたいだ!

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