第12話 ここに来て×裏切るのか×シリアスッ!

 俺は激怒した。

 必ず、かの裏切者、ビルカルをのぞかねばならぬと決意した。


イング


 俺はやつと直接の面識がない。

 だが俺は、あらゆるルーンを扱える初代勇者の血を引く後継者だ。


 ルーンの反応を探るイングを使い、ビルカルのルーンであるベルカナの居場所を探る。


 だが、反応はなかった。


「チッ」


 当然だ。

 それができるなら、フロスヴィンダが俺たちの星へと逃げ込んできたとき、俺とシロウを間違えて襲撃者をよこすこともなかった。

 イングで探れるのは現在進行形で作動中のルーン反応のみ。

 励起させていないルーン核の場所まではわからないのだ。


「あの、クロウさん、何かわかった――」

「師匠ー! 何かわかった⁉」


 うーん、なんだろう。

 フロスヴィンダとササリス。

 同じセリフを発したはずで、聞いてる内容も全く同じにもかかわらず、何故か吹き飛んだ気がする、シリアスが。

 フロスヴィンダが口を開いた時点ではシリアス気味な雰囲気だったはずなのに、ササリスがセリフを被せた時点でギャグになった気がする。妙だな。


「襲撃者がわかった」

「それは本当で――」

「ええっ! 誰? 誰!」


 だから、シリアスな雰囲気をぶち壊すのやめろや。

 連続殺人事件(遺体はシリアスさんのもののみ)とかいう怪奇事件が勃発してしまうだろ。

 いい加減にしろ。


「犯人は」


 素直に口を開きかけて、考える。

 どうやって伝えようか。


(やはりシロウが襲撃に加担していたことを伝えるべきか?)


 いいや、それはどうだろうか。

 シロウが今回の襲撃にかかわってるのは究極的に言えば、ナッツとラーミアを人質に取られているからだ。

 そこを端折って伝えるとロクなことにならない気がする。

 認識の違いでいざこざが生まれて、最悪ササリスが「やっぱあいつは毒にしかならない害虫だね。ここで殺しちゃおう」とか言い始めると厄介だ。


(とはいえなぁ。ここでシロウをかばうのも変だし)


 せっかく、ここまでシロウと敵対ムーブを続けてきたのに、下手にあいつをかばうような言動をすれば全部が台無しだ。

 たとえばこんな感じ。


  ◇  ◇  ◇


「シロウだ」


 俺は襲撃犯を伝えた後、間を置かずに補足を入れた。


「やつの仲間が人質に取られている。それで仕方なく服従の姿勢をとっている。そんな様子らしい」


 ササリスと長い付き合いの俺だから、わかった。

 彼女の表情はほとんど無感情だが、わずかだけ目が細められている。

 きな臭いものをかぎ取って、良くない予感を抱いているときの顔だ。


「師匠」


 彼女の瞳からハイライトがシームレスに消えていく。


「毒されたの?」


  ◇  ◇  ◇


 情けない。あまりにも情けない。それは。

 まるで牙の抜かれたハイエナだ。


 俺が理想とするダークヒーローは、そうじゃない。

 最初は敵だったけど、途中から主人公の仲間になるとか、そういう展開はお望みじゃないのだ。

 終始一貫して、主人公の前に絶望的な壁として立ちはだかる。


 その生き方を諦めたら、俺は終わりだ。


 そして諦めるのはいまじゃ無い。

 これから先も、ずっと来ない。


(無しだな! シロウの事情は話さない! というか、あいつのことも話さない!)


 情報の一部だけを開示しようものなら、ササリスを巻き込むことになる。

 これから始まる大戦を、カオス項を抱えて挑むことになる。

 それは遠慮願いたい。


「言えない」


 だから、それが俺の答えだった。

 ここで知りえたことを、誰にも伝えるわけにはいかない。


「これは俺の問題だ」


 おお、なんかそれっぽいセリフになってきたぞ!

 場の空気もちょっぴり締まってきた気がする!


「お前たちを巻き込むわけにはいかない」


 主に、場をかき乱されたくないからという理由で!


「クロウさん」


 フロスヴィンダがつぶやいた。


「やはりあなたは、お優しいのですね」


 ん?


「この地に招かれた勇者のみに許された、あらゆるルーンの行使。それを共通して使える、うり二つの人物。彼があなたにとってどういう存在なのか、私だってわかります」


 おい、やめろフロスヴィンダ。

 俺が何のために襲撃犯をぼかしたと思ってる。

 どうしてシロウが今回の一件に加担していることを確定情報にしなかったと思っている。


 あたかもシロウが襲撃犯だったことを確定した事実みたいに話すのやめろよ。

 いや事実なんだけどさ。


「まるで写し鏡。否応無しに二重を歩く影。だからこそ、道を踏み外すことを是とはできない」


 そういうことでしょう?

 みたいなわかった感じを出されても、困る。


「その気持ちは、私にも、痛いほどよくわかります」


 そうだった。

 現国王もこいつも、同じルーン核を宿したフサルク星人だった。

 だからこそ民を危難にさらす王を許せずにいるんだった。


 いや、あの、な、フロスヴィンダ。

 俺は別に、お前みたいな人格者じゃないから、そんなこと全く考えてないんだ。


「私も参ります、クロウさん」


 おいやめろ。

 その流れを作っちゃいけない。


「そうだよ師匠! 水臭いよここまで来て」


 ササリスがすかさず同意を示した。

 くそが。

 いい感じの空気出して断りづらい雰囲気醸し出してるんじゃねえよ。


 おのれシリアス、ここにきて俺を裏切るというのか!


(くっ、まだだ! ヒアモリ!)


 頼む!

 お前が俺の最後の希望だ!


 この際だ。俺の邪魔をするわけにはいかないでも、俺のことを信じましょうでもなんでもいい!


 俺が一人で行くことを是として、ササリスとフロスヴィンダがここにとどまるようにとりなしてくれぇぇぇぇ!


「任せて、ください……! 援護射撃は、得意」


 両手をぐっと構えて、ぷりぷりと、小動物のように愛らしいやる気を見せるヒアモリ。


 ああぁぁぁあぁぁっ!

 違うんだ、違うんだよヒアモリぃぃぃ!

 俺が欲しかったのは、そんな言葉じゃないんだぁぁぁ!


 ちくしょう!


 でもかわいいから許す!

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