第11話 人質×取られた×主人公(笑)
俺たちは第二ベースに向かった。
ここは、山奥。
花火小屋の地下やもともと採掘場だった廃坑を再利用している拠点とは異なり、簡易な駐屯地のような作りだ。
森の中の少し開けた場所に天幕を張り、しかもその周囲には
本来であれば、レジスタンスの中でも一部のものしか知らないはずの拠点。
王国軍に見つかることはないはずの場所はしかし、壊滅させられていた。
「ひどい……」
フロスヴィンダがつぶやいた。
目の前に広がっていたのは、もはや森とは呼べない惨状だった。
言葉にするなら燎原。
深紅の炎が、本来あったはずの駐屯地を焼き尽くし、しかも火の手は森全体へと広がろうとしている。
いやいや、まさかね。
確かにさ、シロウの炎は紅色だよ。
でもそれはあいつに限った話じゃない。
シロウが初めて会った
あいつの炎だって紅色だった。
森に放たれた火の色だけでシロウが犯人だと断定するのは早い。
「あたしも、許せない」
森林を焼く炎が、ササリスの怒りに燃え移った。
そうか。ササリスも、怒れるんだな、他人のために。
「林業でどれだけのお金が動くと思ってるの! あぁぁぁっ、お金の素が燃えちゃう……っ!」
やっぱり自分本位の怒りじゃねえか。
そうだろうと思ってたよ!
「ん」
ヒアモリが俺の袖をぎゅっとつかんだ。
あらかわいい。
「あそこ」
ヒアモリが指さしたのは、第二ベースだった残骸が置き去りにされた地点だ。
そこに、フサルク星人の抜け殻が並んでいた。
広がる火の手はササリスが豪雨を呼び出すことで鎮火しながら、火の手をよけて壊れた拠点に近寄った。
見ればフサルク星人の、本来灰色の外骨格は黒く燻されていて、しかもルーン核がどこにも見当たらない。
もしかしたら、炎による直接的なダメージではなく、周囲一帯を燃やし尽くす炎のスリップダメージでじわじわとなぶられたのかもしれない。
襲撃者はどうやら、かなり悪趣味みたいだ。
(なんだ。シロウじゃなさそうだな)
あいつはあきれるくらいまっすぐだから、こんなからめ手みたいな戦い方はしないはずだ。
戦うときは真正面から、正々堂々と。
過剰にいたぶる真似はしない。
そういうやつだ。
(そうなると、誰がやったんだって話になるんだが)
うーん。どうにかそれを探る方法はないだろうか。
いや、あったな。
そもそも、フサルク星人の外骨格に死という概念は存在しない。
あるのは二つの状態だけだ。
つまり、ルーン核が宿っている状態と、ルーン核が宿っていない状態だ。
その肉体に刻まれた記憶は、ルーン核が抜かれた状態だとしても消えないのではないだろうか。
魔法の力で読み解くことが可能なのではないだろうか。
「
これはシロウが好んで使っているルーンだ。
用途は主に、相手の魔法の制御を奪う魔法としてだが、その原義はメッセージやコミュニケーション。
つまり、意志の伝達に起源を有している。
これを使えば、フサルク星人の遺骸から、ここで何があったのかを紐解けるのではないだろうか。
そして、俺の読みは正しかった。
指先が淡くともり、ルーンが成立すると、遺骸の持つ記憶が俺の脳へとなだれ込む。
◇ ◇ ◇
「そんな、まさか……王国軍⁉」
「どうしてこの場所が」
集まったフサルク星人たちは誰一人として言わなかったが、おそらく全員の認識が一致した。
裏切者がいる。
レジスタンスの情報を王国軍に売り渡したやつがいる。
(まずいな。どうにか、ルーンガルドの野郎に知らせねえと)
もっとも秘匿性の高いこの場所の情報が知られたということは、ここ以外のすべての拠点の場所についても情報が洩れていると考えた方がいい。
この男のルーン核は、大地をつかさどる
だからその文字で、地中へもぐり、火の手をやり過ごそうとして……。
「ぐはっ⁉」
その場に、倒れ伏した。
真っ赤な閃光が彼の体を貫いて、彼の体から自由を奪い取ったからだ。
そのルーンの名は、
そして
「そんな、まさか」
その目に映るのは、黒髪黒目の異星人。
「ルーン使い……、どうして」
◇ ◇ ◇
すぅ。はー。
一回、落ち着いていい?
俺知ってる。
こういう時は素数を数えるといいんだ。
1……あれ?
(うぉぉぉぉぉいっ! やっぱりシロウじゃねえか!)
あいえええええぇぇぇ⁉
シロウ⁉ シロウ、ナンデ⁉
誰一人傷ついてほしくない。
みんなが笑って過ごせるような世界にしたいんです。
とかいう気概はどこへやったんだよ!
フサルク星人はルーン核が無事なら大丈夫だから殺傷してもOKなんて言わないだろうな!
反論があるなら言ってみろ!
(ん、記憶に続きがあるな。これをたどれば謎は解けるか?)
いったい、シロウにどんな心境の変化があったんだ。
やつの対極キャラとして、俺にはそれを知る義務がある。
暴かなければ。
◇ ◇ ◇
「おみごと、ルーン使い殿」
「くっ」
シロウとともに行動していたフサルク星人がぱちぱちと手をたたいてシロウの健闘ぶりを称賛し、シロウは悔しそうに顔をゆがめた。
「ナッツとラーミアは無事なんだろうな!」
「ええ。あなたが我々に忠実である限り」
ですが、とフサルク星人は続ける。
「そう何度も疑われるのは心外ですね。もしやそれは反抗的な態度と受け取るのが正しいでしょうか?」
シロウがびくりと体を反応させる。
「ま、待ってくれ! 俺が悪かった。だから、あいつらには、手を出さないでくれ……」
すがるように、フサルク星人の足もとに泣きつく。
「結構」
◇ ◇ ◇
うわ、うわぁ。
あいつ、マジか。
(ナッツとラーミアを人質に取られてんじゃねえぞ軟弱こんにゃく野郎!)
味方を人質に取られたうえに服従させられる主人公がいてたまるかーっ!
……結構いたな。
結構いたけどシロウ、お前がそれをされるのは解釈違いだ! 許さん!
(くそっ、どうしてこうなった!)
どこかで歯車がかみ合わなくなったんだ、致命的に。
いったいどこから……。
ん?
シロウを水球で叩き落としたからか?
……いや、気のせいだな!
これもすべて、ビルカルってフサルク星人の仕業なんだ。
うおぉぉぉぉっ、許せねえッ!
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