第10話 この中に×裏切者が×いる!

 乗るなフロスヴィンダ!

 それは罠だ!


「クロウさん?」


 いいかよく聞け。


 ササリスの作戦がうまくいってしまうと、市場に出回る通貨の大半がササリスの物になってしまう。


 すると当然、物品の流通量に対して金銭の量が不足する。

 需要と供給を釣り合わせるためには、物の価値を引き下げるしかない。

 だが、人々は手元に残ったわずかな金銭を出し渋り、その結果経済は著しく停滞する。物価はさらに下落する。

 経営がなりたたなくなった弱者から順に淘汰されていき、この星の住民は苦しい生活を余儀なくされる。


「むむ、それは、大変ですね」


 なん……だと……っ。

 わかってくれる、のか?


 さすがフロスヴィンダだ!


 危ない! 危ないところだった!

 ふぃーっ、フロスヴィンダが味方でよかった!


 ササリスがチッと舌打ちした。

 こいつ、わかっていやがったな!


「いえ、お待ちください。ササリスさんが、王国崩壊後に蓄えたお金を市場に出回らせていただけるなら、その問題は解決したも同然なのではございませんか?」


 はー。

 フロスヴィンダ、お前わかってないなぁ。


 ササリスは手元に金を置いておくだけで、物価はどんどん下落していくんだ。

 いわゆる、デフレスパイラルというやつだ。

 つまり、何もしなくてもどんどん通貨の価値が高くなるわけだ。


 ササリスが革命終了後に金を手放す道理はない。

 Q.E.D.(証明終了)だ。


「えへへ」


 ササリスがにこっと微笑んだ。


 ほらな!

 わかったか、フロスヴィンダ。

 こいつはそういうやつだ。

 あまり期待するな。


「ご覧ください、クロウさん。ササリスさんのこの無邪気な笑顔が、悪人の顔にお見えですか?」


 純粋な悪だから困るんだよ。


「私は国王の醜悪な笑みをずっと見てきました。だから、人を見る目には自信があります!」


 とりあえずその冠は今日で外した方がいい。


 どの口が言ってるんだよ。

 何もかも間違えてるんだよ。


「むぅ、ではやはり、争いは避けられない運命なのでしょうか」


 そう。

 よしよし。物わかりのいい子は好きだぞー。


 そんなフロスヴィンダだけに、特別な話。


 もはや時代の危難に面している民衆に、フロスヴィンダはどうするのが最善だと思う?

 そうだね。苦しむ期間を最低限に抑えることだね。


 大丈夫。方法なら伝授してあげるから。


 まず、革命軍を急いで募るんだ。

 ササリスが展開しているビジネスがあるから、それを広めるといい。

 このビジネスはフェフで作り出した鉱石が前提として必要になるから、積極的に生産するのも忘れずにな。


 いいかフロスヴィンダ。

 お前の頑張り如何いかんで、新時代の到来がいつになるかが決まる。


(ん……なんだろう。入口方面、たぶん、集会場か? あっちが騒がしいな)


 なにかあったのだろうか。


 そんな俺の疑問に答えるように、一人のフサルク星人がやってきた。

 水を意味するラグズのルーン核を持つ、レジスタンスの隊長。

 ルーンガルドである。


「大変だ、フロスヴィンダ!」

「ルーンガルド? いったいどうしたのです」

「第二ベースが、王国軍の襲撃を受けて壊滅した」

「なんですって?」


 俺は内心でぽんと手をたたいた。

 あー、あったね、そういえばそういう展開。


「あの拠点は革命軍の中でも分隊長以上のものしか知らないはず。いったいどうして」


 フロスヴィンダの目が見開かれ、黒目がぎゅっと緊縮している。

 唇が見る見るうちに青ざめて、カタカタと小刻みに体を震わせている。


(! ここで裏切者がいる、なんて発言をしたらかっこよくない⁉)


 驚愕し、現実を受け入れられずにいるフロスヴィンダ。

 翻って、極めて冷静に、思案を巡らせる俺。

 この対比は間違いなくかっこいい。

 うおぉおぉぉぉっ。


 シナリオが、俺に味方をしている。

 かっこいい演出のおぜん立てをしてくれている!


 フッ、受け取ったぜ、シナリオ。

 お前が俺に託した思い、無駄にはしない。


「裏切者がいるな」

「裏切者がいるね」


 うぉい!

 ササリス! かぶせてくるな! 俺のセリフに!


「息ぴったり、ですねっ」


 ヒアモリィ!

 笑顔でぱちぱちと手を叩くんじゃない!


「そんな……っ」


 フ、フロスヴィンダ!

 そうだよな!

 そっちのリアクションが普通だよな!

 お前はわかってる!


「フロスヴィンダ、残念だが、ササリス様とクロウ様のおっしゃる通りだと覚悟しておいた方がいい」

「ルーンガルドが、敬語を……!」


 おい、フロスヴィンダ、驚くところそこでいいのか。


「致し方ありません、ね。ルーンガルド、王国軍と内通している者を探ってください」

「それについてだが、一つ有益な情報があるんだ」


 ほーん。やるやん、ルーンガルド。

 原作だとこの時点で得られる情報は特になかったはずなんだが。

 本来より優秀になってるのかな。

 ササリスの水魔法が混ざったことで、狡猾さを覚えた可能性まであるな。


 どれ、言ってみ、得た情報ってやつを。


「なんでも襲撃者の中に、複数のルーンを操る異星人がいたとか……」


 おい。


「なっ、クロウさんは違いますよ⁉ この星に帰ってきてから、ずっと一緒にいました!」

「むぅ。そうか」

「ええ、その情報はおそらくガセ……」


 フロスヴィンダが、ぴたりと静止した。

 まるで時間の流れを忘れてしまったかのように。

 息をすることさえ忘れて、静かに、その場に立ち尽くした。


「フロスヴィンダ?」

「違います……。この星にやってきているルーン使いは、もう一人ます!」


 いや、いやいやいや。

 まさかね。


(初代ラスボスに騙されて、しかも二作目に当たる作品で敵軍の内通者にいいように騙される主人公なんているわけないよなぁ!)


 シロウ!

 お前のことだぞ!

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