第14話 初代×ラスボス×置き土産

 ちょっと心の準備をさせてほしい。


 何かしらハプニングが起きていますように、簡単にスリサズのルーンが手に入りませんように。

 そう祈りながら、ひとまずはヒアモリに見つけたルーンを預けることにする。


「あ、クロウさん。どうなされました?」

「これを」


 スリサズゲートで回収してきたルーン文字の刻まれた石を三つ、ヒアモリに手渡す。


「もしかして、先ほどおっしゃっていた、クロウさんの魔法の起源につながるという大事な宝物ですか?」

「そうだ」

「もうこんなに集めたんですか?」

「……ああ」


 お願いヒアモリ、その傷は抉らないで!


「これなら私が預からなくても、すぐに集め終わったのでは?」


 まさかの追加攻撃!

 祈りは通じなかった!


 いや、ほら、あれだよあれ。


「クロウさん、何か嫌な予感でも?」


 そう、そういうこと!

 話がわかるやつだぜヒアモリは。

 どっかの誰かさんとは違って。


「何事も起こらなければそれでいい」


 よくないが。

 盛大なハプニングが起きていて、簡単にはスリサズのルーンを回収できない状況でないと困るが。


「わかりました。クロウさんに預けられたこの財、いつまでも変わらず守り抜いて見せます」


 うん、ありがたいけどあんまり張り切りすぎるなよ。

 具体的に言うとシロウたち一行が海神様のあとを追いかけてきたからと言って超遠距離から射殺を決めようとするなよ?

 あくまで穏便にな?


 俺はお前に、人を殺してほしくないんだ。

 いや切実に。


(あぁ、気乗りしねえ)


 どうしよう。これであっさり最後のルーンであるスリサズまであっさり手に入ってしまったら。

 感極まって泣いちゃうかも。


(泣き言ばっかりも言ってられない、か)


 俺には手札がある。

 フサルク星へと至る最短の経路が確立されている。


 何をするのがもっとも自分本位かわかっていて、それを実行しないのはダークヒーローにあらず。

 己の求める目標に向かって常に全力。

 それこそが俺のあるべき健全な姿。


ペオース


 ゆえに、俺は開かなければならない。


スリサズ


 運命の扉を叩き、その結末をこの目に焼き付けるのだ。


「開け」


 プラズマが眼前で弾けた。

 廃れた採掘場で、虚空に亀裂が走る。

 紫電の門が現れる。


 そしてそこからは、膨大な海水が押し寄せた。


「なっ⁉」

「師匠、これって!」


 海水。

 海洋に存在する、塩分を含む水。

 それが、スリサズで切り裂いた空間の向こう側から、巨大な鉄槌を下すように、膨大な質量を持ってなだれ込んだ。


「チッ、イサ


 流れ来る海水の流れを、停止のルーンで無理やり押しとどめる。

 押しとどめてから、ゆっくりとスリサズの扉を閉じる。


「そっか、師匠が危惧していたのは、この洞窟がちょうど満ち潮の可能性だったんだね」


 いいえ、俺が恐れていたのはあっさり6つのルーンが手元にそろうことです。

 というのはさておき。


「いや、俺がスリサズのルーンを見つけたときは海面より高い場所にあった」

「だから、それが干潮時の話で、潮が満ちて海水に埋もれちゃったんじゃないの?」


 いや、それはない。


「もしそうだとするなら、ルーンの痕跡は度重なる潮の満ち引きで侵食され、形がかすんでいたはずだ」


 だが、スリサズの文字は誰の目からもはっきりとわかるほど、鮮明に描かれていた。

 つまり、海水による浸食を受けてこなかったということ。


「だったら、どうして?」


 ふむ。


 俺はいま、無性に感動している。


(ア、アルバス……! お前だな! ありがとう!)


 俺が考えるに、事の顛末はこうだ。


(アルバスは自らの封印を解くために、【湿】の性質を色濃く受けた大地に小細工を仕掛けた!)


 山火事が起きたかのように、密林が荒れ地と化していた。


(森林が消滅したことで土壌の浸透能が低下したんだ!)


 その結果引き起こされたのが洪水なのか、それとも圧密沈下が起きたのかはわからない。

 確かに言えることは、スリサズの眠る洞窟は海面下に潜り込むことになったという事実だ。


 前作のラスボスである、アルバスくんの手によって!


(お前は、お前は本当によくやってくれた!)


 前作では世界を滅ぼそうとしていたやつが今作では世界を救うきっかけを作っていたとか胸アツか?

 さすがは初代ラスボスを冠するだけはあるぜ。

 まさか死してなおシナリオに干渉してくるとは。

 恐れ入った!


「参ったな」


 いやー、参ったな。

 困っちゃったなぁ。


「すぐにでもスリサズのルーンを回収したいが」


 海底に沈んでるんじゃ仕方がないなぁ。

 いやぁ、残念だ。

 本当に残念だ。


 このままだとシロウくんに尻尾を掴まれちゃうなぁ。

 せっかく先んじてフサルク星に転移して、俺の野望をかなえる予定だったのに、いやぁ、参ったなぁ。


「海に沈んだなら、そう簡単には行かないな」


 これは難しい問題だ。

 作戦を立てる時間が必要だ。

 非常に残念だが、そう判断せざるを得ないだろう。


「師匠師匠」

「なに?」


 いまは機嫌がいいぞ。

 なんでも言ってみろ。


「あたしに任せて!」

「は?」

「つまり作戦はこう。まず、あたしが水魔法で海水を操り、海底に沈んだ遺跡までの道を切り開く」


 おい待てやめろ。

 それ以上はいけない。


「い、いや、ササリス、ほら。もしかしたらものすごい海底深くに沈んでるかもしれないし、そうしたらフリーダイビングだと着地の時の負担が大きいし」

「大丈夫。師匠の得意属性は身体強化ができる空だから!」


 いや、いやいや!

 冷静に考えろ、ほら! あれだ!


「俺の問題じゃない。ササリス、お前の体にかかる負担の話だ」

「師匠がお姫様抱っこしてジャンプしてくれてもあたしは一向にかまわないよ?」

「それはヤダ」


 ブーブーとブーイングがとんだ。

 ブーイングを飛ばしたのはもちろんササリスだ。


「いいもんいいもん。あたしには糸魔法があるもん」


 ん?


「一端を地面に固定して、めちゃくちゃ硬い糸を伸ばしていけばゆっくり降りれるもん」


 そ、そんな、おてんば令嬢が屋敷から家出するときにカーテンを結んで脱出ロープにするような方法で無茶するなよ!


 昔からよく言うだろ。

 急いては事を仕損じる、って。

 ここはゆっくり行こう、な?


「善は急げだよ、行こう! 師匠!」


 やめろぉぉぉ!

 アルバスくんのせっかくのご厚意を無駄にするんじゃねえ!

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